(続)格好が・・・ 43
その頃、彩奈はラウンジで卓也や宏と談話していた。そこには望美や香織、理香や美香、麗奈の姿もあった。
「あの2人、大丈夫かしら?」
「大丈夫!春日ならきっと光輝ちゃんのハートを射止められるさ」
心配する彩奈に対し、宏は笑顔で言った。
「そうなってほしいな!」
卓也は昼間、海岸での光輝と純一のやりとりを見て、この2人は結ばれるべきだと思ったのである。
光輝と同室の広瀬美愛が小走りでやって来た。
「2人共、裸になって抱き合っているわ!」
美愛(みあ)は部屋のどあを静かに軽く開いて、中の様子を見たのである。
「そうか!それはよかった」
卓也は安心したように言った。
「よかったわね!」
彩奈も安堵した。
香織「光輝…あの子、春日くんを受け入れたのね」
望美「よかったじゃない」
美香「光輝ちゃん…タッくんのこと、諦められたみたいね!…よかったじゃない」
理香「それでいいのよ。思いの届かない相手を思い続けても辛いだけだし」
美香「そうよね!春日くんだって結構カッコいいし、いい人だし…」
望美や香織、理香や美香も光輝と純一を祝福するのだった。
「光輝ちゃんには、吹田さんの話したことが効いたことだろうな」
宏がみんなに聞こえる様に言った。
「ちょっと…沖田くん…」
うろたえる彩奈。
「別にいいじゃないか」
美香「一体何の話?」
望美「彩奈さん、光輝に何を話したっていうの?」
理香「是非聞かせて欲しいわ」
口々に問い詰められる彩奈。
「わかったわよ」
彩奈はみんなの前で話し始めた。
「私、男の子のヌードを描きたくて、大沢くんにそのモデルを頼んだんだけど…」
「「ええーー」」
彩奈はそれから、心に決めた相手にしか自身のヌードは見せられないと、そう卓也に言われて断られた件を光輝に告げたことを話した。
理香「ヌードを描こうなんて、凄いわね!」
美香「タッくんのヌードなら、見てみたいわね!」
麗奈が彩奈の傍に来て、
「絵のモデルに言寄せて、卓也くんを丸裸にひんむこうなんて、いい度胸ね」
そう言って食ってかかる。
「丸裸、って…別に、そんなつもりじゃなくて…私、美術部で…」
彩奈は麗奈の迫力に押されて消えそうな声で応える。
「美術部なんて言い訳でしょ」
彩奈は反論が出てこず、冷や汗を流していた。周りの女子は誰も彩奈の味方をしようとはしなかった。
その時、宏が彩奈と麗奈の間に割って入り、麗奈にスマホの画面を見せた。麗奈は反射的に顔を背けた。
「これはイタリアのフィレンツェにある『ダビデ像』というものだ」
画面が見えていない者も、その場の大半の者はその像を頭に思い浮かべた。
「これの作者が、モデルを丸裸にひんむこうなんていい度胸、とか言われたと思うか?」
「ええ、それは、そうね…」
麗奈はそのまま黙った。
「あの、ありがとう…」
礼を言う彩奈に対し、
「俺でよかったら、いつでもモデル引き受けるぜ」
笑顔で宏は言った。すると、
「いいんじゃない?沖田なら、素っ裸にしても、女の子達から恨まれることないだろうし…」
香織が言った。
「一体どうして、男の子のヌードを描きたいなんて思うの?」
望美が彩奈に尋ねる。
「私、以前から麻生先輩に憧れていて…」
彩奈はそれから、広夢の描いた『アダムとイブ』に刺激されたこと、“美少女を描く天才”との評判の広夢に対し、自分は美少年を描くことで腕を磨き、名を上げようと考えた、と話した。
「そんなわけで…大沢くんには、ヌードは駄目だったけど、水着のパンツを履いて描かせてもらうことになったわ」
「卓也くん…それ、本当なの?」
麗奈が尋ねるのに対し、
「ああ。そういう約束でね」
卓也はあっさりと答えた。
「そう!」
麗奈は卓也から彩奈へと視線を移し、声を掛けた。
「ちょっと貴女…」
「はっ、はい…」
また絡まれるのかと、彩奈はビクッとなった。
「卓也くんのこと、ちゃんとしっかり描きなさいよ。ひどく下手な出来だったら許さないから」
「はい。わかりました」
それから間もなく、みんな各自の部屋に戻って行った。
翌日の朝、純一と光輝は顔を合わせると、互いに笑顔で挨拶を交わした。
「純一くん、おはよう♪」
「おはよう♪光輝」
昨夜、2人は結ばれ、裸で抱き合ったが、合宿中ということで、性交はいずれ改めてしようと約束していた。