そして、少女は復讐する 53
そう言う鉄也に敦と健二は目線で無言の同意を示していた。
裏表問わず生真面目キッチリした業界の情報源なら敦や一希、遊び人サイドなら健二か美香といった具合。
翼に至っては、オタクもヤンキーも一般人も関係なく動ける、身軽なフットワークが売り物である。
少々ヤンキー寄りながら千恵子や暁美も概ね翼に近い所だ。
実質、かつての桜木美咲と似た立ち位置ながら陣営も人材運用も全く異なる、故にこうして鉄也グループについているのだ。
「てぇかぁ〜?何で清楚系って敦の方に行っちゃう訳ぇ〜?」
「日頃の生活態度改めろ、向こうから勝手に来るもんだ。」
「あーもぅっ!これだからボンボンの価値観は困るっ!」
「俺は正直、子猫ちゃん(男の娘)の方もいいんだがな。」
鉄也は健二と敦のアホな口論を聞き流す。
鉄也はまだ考え込んでいた。
エリスを迎えに来た男、見覚えはあるけど思い出せないあの男。
「あんまりこだわりすぎるとよくないぞ」
「ああ、わかってる」
敦が鉄也に言う。
そんなうちに、
「そいじゃーなー、敦」
「おう、また明日な」
2人と別れ、家の門へと向かう敦。
一等地に建つ大きなお屋敷、これが須藤家の邸宅である。
敦が入っていった門は、正門ではなく実は裏口。
両親との関係が冷え切っている敦は、半ば離れで一人暮らしの状態なのだ。
その気さえあれば自炊能力もあるし、家を出ることも可能なのだが、敦がそれをしない理由…
「お帰りなさいませ、敦様」
「ただいま…いつもありがとう」
離れの扉を開けた敦を出迎える女性。
敦よりも2歳年上、須藤家のお手伝いさんの近澤亜美である。
亜美は両親の経営する工場が不況のあおりで倒産。
両親自殺で大量に残った借金のカタとして須藤家に『差し押さえ』された。
そんな境遇の女はこの須藤家には沢山いる。
彼女のように親が残した借金で引き取られる者や、親自身が借金の為に差し出すケースもある。
それらは屋敷に引き取られ、須藤一族の身の回りの世話をする事になるのだが、勿論夜の相手もする。
亜美は敦の父、須藤家現当主である須藤厳のお手伝い兼愛人・・・
愛人と言っても最下層の肉便器だった。
14歳で須藤家に来た亜美は避妊手術まで受けて巌の性処理の道具として使われ、高校すら行っていない。
そんな夢や希望の無い生活の中で彼女の唯一の安らぎが敦だった。
誰に対しても笑顔で優しい少年の存在に癒されるものを感じていたのだ。
敦の方も亜美に好意を持っていたらしく、やがて二人はどんどんと親密になっていく。
そして、敦の初体験は亜美・・・
それから巌のお呼びがかからない時は、敦と亜美はお互い貪るように抱き合った。
しかし、次期須藤家当主と只の肉便器とでは、セックスはできてもそれ以上の関係にはなれない。
そして、巌の所有物である亜美は屋敷から出れない。
それが、敦が屋敷から出ない理由でもある。
そして、もう一つ理由が・・・
「おかえりなさいませ、敦様」
頭を下げ敦を迎える亜美とよく似た顔の少女。
亜美より少し背が高く、そして顔つきは更に整って綺麗。
スタイルも良く、美しく大きな胸・・・
絶世と言っていいレベルの美少女だ。
「だたいま、慧」
近澤慧。
敦とは同い年になる。
亜美と別の所へ引き取られたが、敦が探し出して引き取ったのだ。
どう見ても絶世の美少女だが・・・
亜美の弟である。
慧は男の娘と言うか、シーメールである。
元々女顔で女声、そのままでも『美少女』だった。
その為引き取られ先でシーメールに改造されたらしい。
豊胸手術や各種脱毛済み。
下半身だけはそのままで、そう言う趣味の客を取る男娼だったのだ。
そして、敦がそっちの趣味に行くことになる元凶のような存在である。