そして、少女は復讐する 52
「川島遥の援交と半グレ、二人とも覚えてるよな?」
今一つ脇役な敦の呟き、鉄也と健二は幾らか真剣に耳を傾ける。
文武両道ヤンキーとして彼らは敦を評価している故であった。
「極道方面で健二の姉さんと接点がないかって、俺の『子猫ちゃん』人脈で探ってみたんだが…。」
そう敦が言いかけた所で、鉄也と健二は尻を押さえながら距離を取った。
「お前らのウンコ臭い肛門には興味ないって、何度言えば理解してくれるんだ?」
敦のセックス観もまた歪んでいた。
彼に求婚する女達の正体、結婚は一生モノの援助交際と捉えた人種。
そうした環境から一希のレズ化と同じく、敦にもホモ傾向が幾らかあった。
現在二人の関係は政略結婚前提の婚約騒動と同性愛のシンパシーから、箸休めのセックスフレンドとして成立している。
「桜子さんをどうこうした連中はまだ塀の中だ。」
「可愛がられてる事を願うぜ、ケツ壊れてハラから直接クソ垂れる身体にされるぐらいな。」
健二の怒りを察した敦は話題を戻す。
「川島とつるんでやがる元締、各地を転々としながら短期の仕事をしてるらしい。」
敦が『子猫ちゃん』と呼んだ男の娘達。
ゲイと混同されその活動はどうしてもアンダーグラウンド寄り、故に事情通な情報源である。
「川島みてぇなタイプだと無理矢理って線は薄いな。」
「処女捨てたい地味キャラ人脈はありそうだろ。」
「元締は売り物が無くなったらまた別の学区を探す。」
「川島も元締も都合良く縁が切れて割り切れそうだしな。」
鉄也と健二もまた敦人脈の情報から推測を立てていた。
「あーもぅ?いつ捨てるの?今でしょ!主に俺で!」
そんな冗談を言いながら、敦は真顔に戻る。
「その元締の依頼主・・・一つは小田村組」
その名前は健二もよく知っている。
姉を買い奴隷化したのは小田村組の若頭だったからだ。
大規模な売春摘発で組としては壊滅した筈だが・・・
「でも、元締がパクられず活動してんのは、まだバックがいるからだと見てる」
「そのバックが力あるんだろな・・・」
鉄也が考えながら導き出した推理。
「あれか、小田村もそのバックの手先か・・・」
「だろうね、これ以上サグり入れるとそっちが出てくるかもな」
小田村組壊滅の裏は証拠隠滅なのだろう。
なら、この問題の根はとんでもなく深い可能性がある訳だ。
「慎重にやらねぇとだが・・・正直目障りだ」
「ああ、情報はできるかぎり集めとく・・・あとはそれからだ」
まだ分かってない事が多すぎるのだ。
この件もそうだが、由佳里のクラスの『あいつら』の特定もできてない。
分かっているのは、『あいつら』が川島遥と桜木美咲の仲立ちをした事。
それがどんな意図かも図りかねている。
…そんなわけで、あてもなく彷徨う3人組。
そこに―
「おっ?」
一人のよく見知った少女の姿を見かけた。
碧い瞳の麗しい美少女…由佳里のクラスメート、相沢エリス。
「…そういや、小田村組は国際的な闇組織とつながりがあったな」
「それがどうかしたよ?」
敦の言葉に健二が尋ねる。
「いや…あの子、父親が外務省の官僚、母親は大使館員…いかにもなお嬢様じゃないか」
「だけどよー…エリスちゃんはユカリンにも、川島にも桜木にも無関係だぜ?」
そう話している所に一台の高級車。
スモークガラスに趣味の悪いエアロ。
いかにもチンピラ好みの仕様。
それがエリスの横に止まると窓が開き、エリスは笑みを浮かべて運転手と親しげに話すと車に乗り込んだ。
走り去る車を見ながら健二が真顔になって言う。
「あの男・・・元締とツルんでる奴だぜ・・・」
運転手は援交グループの元締の仲間らしい男。
健二や敦は調べて見知った相手だ。
「なるほどな・・・少しだけ見えてきたぜ」
鋭い目で言う敦。
その時、鉄也はどこか怪訝な顔で考え込んでいた。
「どっかでアイツ、見たことあるんだよなぁ・・・」
思い出せないが初めて見る顔ではない。
何かが引っかかりながら記憶の中をひっくり返す鉄也だが、どうにも思い出せない。
「案外、鉄也が一回シメた相手かもな」
「殴った野郎なんて一々覚えてないだろうしさ」
敦と健二がそう言うが、鉄也は引っかかったままであった。
「兎に角、これを調べておく必要あるな・・・あのエリス、曲者かもしれねぇ」