そして、少女は復讐する 35
「うん、行くけどお母さんに優しくしてあげてよね」
「俺は優しいつもりだけどなー・・・麻由美がいいオンナすぎんだよ!」
鉄也の言葉に由佳里は悠馬に携帯を返すと慌てて身支度を始めた。
今日の朝は麻由美は上機嫌でいて、化粧もばっちり。
下着選びも入念だった。
よっぽど鉄也とのデートを楽しみにしてたのだろう。
女に戻って人生謳歌してる様子は娘ながら嬉しいものがあった。
そんなはしゃぎっぷりでラブホでも飛ばしてガス欠・・・
それもたまに可愛らしい暴走する母らしくていいなと由佳里は思うのであった。
「じゃあ、オレ達がユカリン送るわ・・・じゃあ、二人を頼んだぜ」
「了解っス!」
健二が歩にそう言うと、美香に千恵子、敦も身支度をする。
そして桐間家にかなり不安げな悠馬と、ちょっと期待気味の里菜、そして楽しそうに美少女姉妹と遊ぶ歩を残して、由佳里たちはラブホ街に向かったのだ。
「ユカリンはこういうとこ来るの初めてだよなぁ」
「うん…」
健二が由佳里に何気なく話しかける。
駅前繁華街の裏通り。
表とはまた空気の異なる、しかしネオンは表通り並みに眩しい輝きを放つ。
県内でも有数の風俗・ラブホの立ち並ぶ一角だ。
「みんなよく来るの?」
「うん」
「お金かからない?」
「まあ、財力あるヤツがいるからなぁ」
健二が敦を見て言う。
敦は同じく笑いながら言う。
「お前とミカやチエと出会ったのもここだっけ?」
「ああ、そうだったな」
健二がそう言うと美香と千恵子も笑いながら言う。
「ここでアタシ達エンコーしてたら、チョーイケホストに会ったのよ」
「それがケンジだった訳!」
それは中学の時だったらしい。
美香と千恵子は援助交際でオヤジから金稼いでいて、健二は年齢ごまかしてホスト稼業。
つまり、ここは馴染みの場所なのだ。
今現在も美香はセクキャバ、健二はホストと職場でもあったりする。
彼女たちと付き合いだした由佳里だったけど、その辺はわからない世界だった。
「この辺でウチの生徒もウリやってる子ちらほらいるよ」
由佳里達の通う高校はさして評判がいい訳じゃないし、この繁華街もそうだ。
ただ今まで由佳里がそんな生徒達と付き合いがなかっただけだったのだ。
多少驚きつつも由佳里がふと路地の方を見ると、そこへ入っていこうとする女性。
それは確かに同じ高校の制服だったし、顔も知ってる気がした。
「おい、さっきの」
「ユカリンのクラスの女…だったんじゃね?」
敦と千恵子が顔を見合わせて言う。
「うん…確か、川島さん…?」
川島遥。
由佳里虐めにはまったくの無関係…と思われている存在。
そもそもこの遥、桜木美咲とは犬猿の仲。
由佳里自身も一度も遥とは話したことがない。
「ちょっと後つけてみようか」
健二がいつものキャラと正反対の、冷静な口調で言った。
由佳里の知っている川島遥と言う女子生徒は、真面目で融通が利かなそうなイメージだった。
割と綺麗な顔立ちだが、メガネの奥の視線はいつも睨み付けているようで、余り親しくなりたいタイプでなかった。
でもそれなりに取り巻きのような子がいて、決して孤立してる訳ではないし、他のクラスにも友達がいるみたいだった。
その彼女がこんな所に・・・
少なくとも、彼女の学校の素振りだとこの場所に縁がなさそうだったが、健二や敦は何か感ずるものがあったらしい。
そっと窺うと、路地裏では彼女と数人の女子。
由佳里のクラスの子や他のクラスの子もいた。
その集団に男が数人近づいてきた。
40台とか50代かもしれない男たちは遥と話し込むと、男たちは遥に何か渡す。
どうやら現金のよう・・・
そのうちのいくらかを遥が抜き、女子達にも渡す。
そして女子たちが男の腕に絡ませて連れだって近くのラブホへと消えていった。
路地裏のごみ箱の上に股を開いて腰かける遥は、懐から煙草を取り出し火を点ける。
やり取りにしろこの動作にしろ、彼女は相当に手馴れているようだった。