やって来たワン娘! 12
「ああっ!ご主人様!」
俺を見つけて満面の笑みを浮かべるリリナ。
「なっ、なっ、なっ、なっ」
あまりの事態に動揺する俺。
「「「「「ご主人様?!」」」」」
当然クラス中から凄まじい反応が飛び交う。
「な、何やってんだリリナ?!此処に転入するなんて聞いてないぞ?!」
「あれっ?そうでしたか?」
呑気にそう言うリリナに俺は頭を抱える。
「おい、今ご主人様って?!」
「リリナって呼び捨てしてるぞ!」
「も、もしかして、あの2人付き合ってるの?」
「な、なんであんな奴に、あんな娘が?!」
クラス中が騒然とする中、クラスの女子の一人がリリナに質問する。
「あ、あの、五十嵐君との関係は?」
今更ながら、余計な事を言う前に止めたかったが、俺が止める間も無く、
「え?私は、ご主人様のお嫁さんですよ」
平然と答えやがった。
「「「「「えええぇぇっっ?!」」」」」
驚愕の悲鳴が教室中を駆け巡る。
「ああ、失礼しました。まだ正式に結婚してませんから、未来のお嫁さんでした」
リリナが訂正するが、殆ど意味が無い。
「え、えっと…2人は婚約者って事?」
そう質問する男子にリリナは、アッサリ答える。
「はい!両親の許可も得て、ご主人様のお家でお世話になっています」
「はあ?!確か五十嵐は、ずっと両親が留守で、一人暮らしだったはずだぞ?!」
リリナの答えに別の男子が叫ぶ。
「はい。ですから今は二人暮らしですね」
その答えに、更にざわめき立つ教室。
「あの、そもそもご主人様って?」
「ご主人様はご主人様ですけど?」
「いや、その、何で五十嵐君をご主人様って呼んでるのかなって?」
質問の意味が分からないと言わんばかりのリリナに戸惑いながらも改めて質問する女子。
「ご主人様は、ご主人様ですから」
「そ、そうですか」
答えになってなくて釈然としないが、笑顔で答えるリリナに、これ以上の追求が出来ない様で引き下がる。
「リリナっ、ちょっと来て」
「お、おい五十嵐!どこへ行くんだ!?」
「すいません先生。突然気分が悪くなったので、早退します!」
俺は担任の教師に軽く頭を下げると、クラスメイト達の疑惑に満ちた視線に曝されながら、リリナの手を引き教室から出て行った。
「で?何で家で留守番してるはずの君が学校に居るんだい?」
話を聴かれないよう校舎の隅にある空き教室にやって来た俺は、リリナにまずそう質問した。
「だって私はずっと一緒に居たいのに。ご主人様ったら、学校に行っちゃうと半日は帰って来ないんですもの・・・一人だけ家で留守番してるのはもうイヤなんです!」
「気持ちは分かるけど・・・」
「それでその事を智紀様にご相談したら「なるほど、でしたら姫様も康哉と一緒に学校に通われてはいかがですかな?何なら手続きその他はこちらで手配しておきますよ」と、おっしゃって」
「また、おじさんか・・・」
リリナの話を聴いた俺は、頭痛を感じて額に手を置く。
俺とリリナを出会わせてくれた事は感謝しているが、こうも毎度厄介事を引き起こされると本気で縁を切りたくなってくる。
「やはりご迷惑だったでしょうか?」
リリナは不安そうな顔をする。
「い、いや!俺もリリナと一緒に学校に通えるのは嬉しいよ・・・ただ事前に相談して欲しかったかな」
「はい、申し訳ございません・・・」
リリナはすっかり意気消沈してしまっているようだ。
(まずいな・・・)
普段は明るいリリナだが、時々変な風に思いつめる事があるのだ。
(何とか機嫌を取らないと・・・)
「あ!そ、そういえばその制服とても似合ってるね」
「え?・・・は、はい!ありがとうございます♪」
「うん!似合ってる!リリナのセーラー服姿とっても可愛いよ!うちの学校の制服がこんなに似合う子他に居ないよ!」
「うふふ・・・お世辞が上手ですね♪でも嬉しいです♪」
ちょっとあからさま過ぎたかなと思ったが、どうやら機嫌を直してくれたようだ。
とわいえ俺の言葉はあながちお世辞ばかりとはいえない。
学校指定のオーソドックスな紺色の地味なセーラー服も、リリナのような美少女が着れば、途端にファッション誌のモデルが着ていてもおかしくない素敵な服に見えるのだから不思議だ。