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龍の一族
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龍の一族 22

そこでおずおずと、様子を窺うように椿が言った。

「な、なあ…釣り餌も無しに、引っ張り出せうるものなのか?
たとえばの話……女しかいない所にもそのあやかしが現れたり、人里に姿は見せたが男を誘い惑わす事も無かったような事ってのはあったのか?」

女将達は下を向いて首を横に振る。

「……最初のころはさ、女と一緒なら攫われないかなと思って村の男には奥さんだとか姉や妹だとかといつも一緒に行動させてたんだけど、効き目は無くて、ふらふらと誘い出されて追っかけてもいつしか姿を消してしまって、結局、こうなったの」

悔しそうに語るのは、女将の姪にあたる少女だ。

「なら決まりだね。俺が奴を釣り出す。日向さん達は俺の近くに隠れてて、あやかしが出たら即刻で討ち伏せる。もちろん、俺も可能な限りの抵抗をする」

和人が決然と言うと、日向も頷いて、後を引き取った。

「そうだな。子細はこれから詰め……」

だが日向の発言を遮る声があった。女将の姪にあたる少女だ。

「そんな事をしたら、あんたも死ぬだけよ」
「福!何ということを言うの!謝りなさい!」
「叔母さんこそ、無駄死にさせる気?」

女将と姪の言い争いが始まりそうになり、和人が割り込んだ。少女を真摯に見据えて言う。

「福さん…でいいのかな。俺はこのためにここに差し向けられた身だし、俺は君たちを見捨てる気にはなれない。武人として、覚悟を決めた以上、引くつもりは無いよ」

福と呼ばれた少女はまだ反論しようとしたが、その前に椿が呟くように言った。

「俺らもこの件解決しないと、罪に問われるんだよ…」
「私もよぉ。だからここは、可愛い彼の心意気を買って…ね」
「そういうわけだ。国司からの命で、この件を解決することがこの者たちの無罪放免の条件となっている」

おっとりと桔梗が言い、和人にしなだれかかる。
日向も、一瞬桔梗を睨むが福に向き直って告げた。

「ごめんなさい…そして、お願いします。どうか、村を救ってください」
「「!」」

和人達は驚いた。福が、いきなり両手をついて謝罪し、村を救うよう頼んできたのだ。

「どういうこった…」

椿が驚いて呟いている。いきなりの福の謝罪と懇願にという急変に頭が追い付かないのだ。

「何回も失礼なことを言ってごめんなさい。
もう誰も、死んでほしくなくて、それに最初、貴方たちを信用していなかったの。
でも、誰かがあのあやかしを止めないと、本当に村が……」

それ以上言葉が出なくなったのか、福は平伏したまま動かない。
沈黙が、場を支配した。
しばらくして、和人が優しい口調で語りかけた。

「いいんだよ。君は僕の命も心配していてくれたんだから。誰かが罪を負う話じゃないよ」

「福、あなたは…」
「和人さん……」

女将さんは安堵したようで、優しく姪を見ていた。
和人の言葉に頭を上げた福は、よほどこみ上げるものがあったのだろう、彼の名を呼んだあとは声にならず、涙を浮かべていた。
そして、無言のままもう一度平伏した。

「何とかして見せる。だから、待っててほしい」
「ありがとうございます」

女将さんも、その一言と共に平伏した。

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