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龍の一族
官能リレー小説 - その他

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龍の一族 18

「わたくしどもも遊び半分でこのようなことを申しているのではございません。
 私1人の命で新しい命を授かれるのならば、喜んで好みを差し出しましょう。
 なにとぞ、ご理解をいただけますようお願い申し上げます」

その言葉に和人の殺気が一気に膨れ上がる。
いや違う。無秩序に放たれていた殺意が明確な標的を与えられ、その密度が増したように感じるのだ。
しかし女は一歩も引かない。場数を踏んでいるのかと思えば、さにあらず。
よく見るとその身体は小刻みに震えている。
死の恐怖におびえながらも、それでも村の未来のためにと懇願している。
不退転の覚悟を前に、和人は無言で近寄り・・・女の肩をポンとたたいた。
いまだ引っ込む気配のない殺意に、女の身体がビクリと震える。

「殺されてもかまわないと言ったな・・・?」
「は、はいっ・・・」
「・・・いいだろう。顔を上げろ」

すると和人の身体から放たれていた殺気がうそのように霧散する。
受け入れてもらえた。そう思った女が歓喜の表情をもって顔を上げる。
しかしその次の瞬間、彼女の顔はきょとんと間の抜けた表情に変わる。

「・・・え?」

なぜなら彼女の双丘の間に、1本の短刀が突き立てられていたからだった。
なぜ?どうして自分の胸に短刀が刺さっている?
自分は客(和人)の許され、願いを聞き届けてもらったのではなかったのか?
疑問と困惑が女の思考を満たしていく。
だがそれもすぐに死への恐怖に取って代わられた。
当たり前だ。短刀とは言え、柄まで深々と突き刺さっているのだ。
これで死なないなんて考える人間なんて、まずいない。

(怖い!怖い、怖い、怖い、こわいこわいこわいコワイコワイコワイ―――!)

自分はもうすぐ死ぬ。そう思うと怖くて恐ろしくて仕方がなかった。
どうして自分が殺されなければならないのか。
理不尽な死を前にして激しい怒りと憎悪が湧き上がり―――すぐに消えた。
こんなことになった原因は、『自分を殺してかまわないから村を助けてくれ』と懇願した自分にあったとわかったからだ。
愕然とした。そして後悔した。なぜ自分はあんなバカなことを言ってしまったのだろうと。
助けを求めるにしても、あんな言い方さえしなければこんなことにはならなかったのに。
先ほどまで殺意にさらされてもなお引くことのなかった女が、まるで別人のように死におびえている。
無理もない。目的を果たしたと安心したところを刺されたのだ。
目的を果たし、覚悟という心の支えを失った彼女が死の恐怖に耐えきれるわけがなかった。
自分は間もなく死ぬ。そう思うと、怖くて体が震えた。涙があふれて止まらなかった。

(死ぬ、死ぬ、死・・・ぬ?あ、あれ?)

だがいつまでたっても女の意識が消えることはなかった。
確かに自分の胸には深々と短刀が突き刺さっているのに。
事ここに至ってようやく何かがおかしいことに気づいた宿の女に、和人は言った。

「天覇二刀流、試シノ技―――『臨死開眼』。どうだ?
 疑似的にでも死を体験してみた気分は?」

天覇二刀流、試シノ技『臨死開眼』。それは相手に殺傷するためではなく、相手に命の尊さを諭すための技。
剣術とはつまるところ、凶器である。多謝を殺傷するための武器であり、力である。
ゆえに心が弱ければ使い手は簡単に力におぼれ、簡単に道を踏み外す。
天覇二刀流の開祖はそうなることを恐れ、この技を編み出した。
死と向き合うことで命の尊さを教え。さらに力の使い方によっては人を殺傷する以外の方法もあると諭すために。
和人自身も幼いころ、祖父からこの技を食らい、命の尊さを知った。
だからこそ彼は怒った。簡単に命を捨てるような発言をしたこの女を。
確かに全を生かすために、個が犠牲にならなければならない状況は多々ある。
しかし今、この状況においては違う。だから和人はただの一般人である彼女にこの技を使ったのだ。
己がどんなに愚かなことを口走り、実行しようとしていたのかを。
事実、彼女は死を前にこれ以上ないほどの恐怖を味わい、激しい後悔をした。

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