侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 93
「それは俺も同じさ」
諦めは一種の逃げだ。
「生憎と俺は逃げるのが好きじゃない。特に恋愛となれば、ね」
好きな相手が振り向かない。
それを悔いて逃げるなど、有り得ない。
振り向かないなら、振り向くまで足掻いて相手の気を引くまでだ。
そして必ず欲しいと思った相手を物にする。
それが恋愛というものだ、と狼鬼は説いた。
「なら、狼鬼様は狼ですね」
狙った獲物は何処までも追い掛けて狩る狼だ。
「それじゃ君は逃げる狼を追う狩人かな?」
狼鬼の返した言葉に理緒は小さく笑った。
それを見て狼鬼も笑った。
二人は小さく笑い合った。
そして眠りの世界に旅立った。
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プールから出た瑞穂は寝室でグラスを傾けていた。
静は鬼門堂の方で接客をしている。
本当はまた抱かれたかった。
しかし、店の方もやらなければならないので仕方が無い。
瑞穂が傾けているグラスの中身はドロドロした白い液体だ。
静の猛りから絞り出した体液である。
それを瑞穂はワインボトルに入れて保存していたのだ。
瑞穂は口に含んだ。
とろみがあり、それでいて酒のように酔わせる力を持つ味だった。
「やはり熟した方が美味いわね」
熟した物ほど美味い物だ。
しかし、ただ熟しただけでは駄目だ。
丹念に加工して保存しなければせっかくの酒も不味くなる。
だから瑞穂は静の体液の中に自身の液体を入れて掻き混ぜる。
これによりとろみが増して、味を維持する事が出来るのだ。
白い液体を全て飲み終えると、今度は透明な液体をグラスに注いだ。
こちらは静の“女の体液”だ。
こちらはとろみよりも滑らかな味わいで口直しにちょうど良い味である。
それを飲みながら瑞穂は行為の余韻に浸った。
静は鬼門堂の中にある部屋の一つで物色をしていた。
部屋は色々な衣服や道具が散乱していて清潔の欠片も無い。
『何を探しているのだ?静よ』
マーズが問い掛けてきた。
「明日は少し出掛けるの。だから、瑞穂が変な真似をしないように準備をしておくのよ」
『なるほど。まぁ、あの娘なら主に何をされようと喜んで受け入れるだろうからな』
およその予想は出来ていたマーズは静の取り出した物を見て確信した。
静は取り出した物を見て笑みを深めながら、どうなるか楽しみだと思った。