侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 10
それでも些か偏見に近い考えを持つ者たちも多く、御用改めをされる事もあった。
それから逃れる為に、工夫を重ねて裏で売り捌いたりした。
静のメイド服も例に漏れず、裏の怪し気な店で購入した。
店の主は、割と親切でその道を極めた者らしい。
そして、あの棒を渡したのも、その主だ。
主に聞けば、この棒を取り出す事が出来るかもしれない。
そう静は思った。
そして、また新しい物があれば、虎太郎が帰って来た暁に備えようと思っていた。
その店は、江戸の北側、通称「鬼門道」にある。
鬼門道は、不逞浪士達の溜まり場だったが、外国に行けるという事もあり、そちらで一旗挙げようと、一気に皆が出て行ったのだ。
その他にも、松平将軍が虐殺とも言えるほど苛烈な弾圧をした事もある。
これにより不逞浪士という名の塵は一掃されたが、北は古くから鬼門と呼ばれている。
つまり不吉な方角なのだ。
かの平将門も鬼門を封じる為に、墓所を移された程だ。
それ故に誰も北側には引っ越したりしなかった。
それが功を煮やしたのか、西洋の物を売ったり、文化などを扱う者たちが集まった。
外見は解からないようにされているが、それでも庶民たちの間では「公の秘密」という事で知られている。
静は、メイド服に身を包み、人目を避けながら鬼門道に入った。
関所のような物は鬼門道には無い。
何時でも出入りは出来る。
しかし、大抵の者たちは、昼間の内に行き、夕方から夜に掛けて出て行く。
そうでもしないと知られる恐れがあるからだ。
それは静も同じ事である。
鬼門道を歩きながら静は、目当ての店に急いだ。
鬼門道の奥まで行くと、壊れ掛けた長屋がある。
ここが静の訪れた店だ。
名前は、「鬼門」だ。
長屋全体を改造した店で、洋服から武器、食べ物なんでも揃っている。
しかし、一見客はお断りで、誰しも入れる訳じゃない。
静の場合は、たまたま道を聞かれて答えただけの出会いだった。
だが、その主が豪く静の事を気に入って、自身の店を紹介してくれたのだ。
長屋の奥に行き、一番右端の戸を開ける。
中は西洋の物で、ごちゃごちゃしていた。
「おや、静さんじゃないですか」
店の奥から老人が出てきた。