侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 82
「歯応えが無さ過ぎるな」
山のように積まれた武士たちを尻目に煙管を蒸かす狼鬼の姿があった。
狼鬼は圧倒的な強さで全員を叩き伏せたのだ。
刀は抜いておらず素手で相手を殴り、蹴り、関節を外した。
「おじちゃん、強い!!」
朱美は狼鬼に抱き付いて言った。
「なぁに。これでも若い奴らには引けを取らないさ」
狼鬼は笑いながら朱美の頭を撫でた。
そこへ・・・・・・・
「貴方だったの」
女の声がした。
静の幼馴染であり宿敵とも言える神楽由利だった。
「何だ。お嬢ちゃんか」
狼鬼は男装の格好をした由利を見て目を細めた。
現在の彼女は男物の着物を着て2本差しだった。
傍から見れば美丈夫に見える。
「この前、道場で見知らぬ浪人に叩きのめされたと言っていたけど貴方だったのね」
私の門下生を倒したのは、と由利は言う。
「門下生?こんな歯応えのない奴が門下生か。天下に謳われた柳生新陰流も落ちた物だ」
「・・・胸糞悪い言い方ね」
「本当の事さ。昔は、門下生一人一人が仁義礼を弁えていた。それが今では徒労を組まないと何も出来ないんだからな」
狼鬼の言葉に由利は眉を顰めた。
自分が切り開いている道場の質は良い方だ。
江戸では北辰一刀流、神道無念流、鏡新明智流が柳生新陰流以外に名が知られている。
北辰一刀流は技、神道無念流は力、鏡新明智流は位が優れていると言われている。
これは幕末期の話だが、今でもそれは通用している。
現に大勢の剣客達を輩出している実力を誇る。
その面では柳生新陰流とは格が違う。
柳生新陰流は将軍家指南役も務める剣術の宗家とも言える。
そんな格式高い流派なので一般の者は受けられない。
門下生になれるのは大名か旗本だけだ。
だから、本来なら質は高い筈なのだ。
所が現在は天下泰平の世の中。
日常生活に置いて剣を抜くなど先ず無い。
そのため剣の腕など必要とされないし、また意味が無いのだ。
柳生新陰流は将軍家指南役だ。
だから格式も高い為に所謂「ごま摺り」とも「おべっか」とも言える事を良くする。
何処の道場でも同じだが、新陰流の場合は相手が相手だけに尚更だ。
だから実力が無い者でも目録から免許皆伝にしたりする。
ここ等辺が三大道場と違う所だ。
向こうは実力が無ければ免許など与えない。
だからこそ剣客を輩出できるのだ。
由利もこれには賛成だ。
現に自分の道場では実力を認めた者にしか免許を与えない。
この者達も実力があり尚且つ品格があるからこそ、免許を与えたのだ。
だが・・・この様を見るとそうでもないと言われても否定できない。