侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 67
風呂敷の中身は黒い布のように薄い物だった。
下着にも見えるが、そうではないらしい。
説明書らしき物が貼られていたので読んでみる。
『これは西洋でビキニと呼ばれる物です。下着ではなく川などで泳ぐ為に使用する洋服です』
何でも、このビキニと呼ばれる物はその悩殺的な形から名付けられたらしい。
『貴方様は、恥ずかしがるかもしれませんが似合うと思い用意しました。これ以外にも前に案内しました部屋にありますので着て下さい』
こんな事でしか礼を出来ない自分を恥じながらも、宜しくお願いしますと最後には締め括られていた。
静は手紙を降りたんで、奥へと向かった。
奥にはプールと呼ばれる水を溜めた場所がある。
ここは泳ぐ場所らしい。
そこで着物を全部脱いで裸になりビキニを付けてみた。
ビキニは下着と同じのように思えたが、水に入ってみるとその違いが分かった。
明らかにこちらの方が水に濡れても気持ち悪くならないのだ。
下着だと些かヌルヌルする感覚もこちらには無い。
これは良い品だと静は思いながら泳ぎ始めた。
泳ぎながら静は仕事を頑張ってしようと思った。
一方、瑞穂は静が出掛けて暇を持て余していた。
朱美は友達と出掛けており理緒は一人で剣の修行に励んでいる。
昨夜、静の部屋には行かずに理緒の部屋に行ったが理緒から言われたのだ。
『暫く一人にして下さい』
拒絶の声に瑞穂は驚きながらも理由を問い質した。
しかし、理緒は断固として口を割らなかった。
その事もあり朝、静の部屋に忍び込んだ次第だ。
それが逆に怒られる羽目になったが。
瑞穂は理緒の居る道場に向かった。
道場に行くと理緒が木刀を握り素振りをしていた。
無言で木刀を振う理緒。
その後ろ姿は何処か冷たい印象を受けた。
明らかに瑞穂が来た事を知りながら無視しているのだ。
瑞穂は意を決して理緒に近付いた。
「理緒」
「近寄らないで下さい」
理緒は瑞穂が伸ばした手を叩き落とした。
「理緒・・・・」
「私は・・・お姉様の玩具じゃありません」
この前、瑞穂は理緒が限界だと言ったのに攻めた時があった。
どうやらそれを根に持っているようだ。
「あれは・・・・・・」
「私が嫌だと言っても聞かないで・・・・お姉様は結局、誰でも良かったのでしょ?」
自分の渇きを潤してくれる相手なら。
「私じゃなくても良かったんですよね?」
「違うのよ。理緒。お願いだから、話を聞いて」
瑞穂は必死に弁解しようと試みたが駄目だった。
理緒は木刀を仕舞い、瑞穂を横切った。
声一つ掛けずに出て行く理緒の背中を瑞穂は見ているだけでしか出来なかった。
一人、残された瑞穂は酷い悲しみに襲われて一人で泣いた。