侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 61
理緒と朱美の帰えってきた声を聞いて静は瑞穂に軽く口付けを落とし、また抱いて上げると言い残して部屋を出た。
残された瑞穂は、何とか立ち上がって風呂場へ汗だくの身体を流しに行った。
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美味しいですね。この料理」
水月は綺麗な浴衣を着て食事をしていた。
目の前には贅が凝らされた食事がずらりと並んでおり一人で食べるのは無理な程ある。
しかし、それを半分近く水月一人が平らげているから凄い物だ。
「そいつは何よりだ」
向かい合うようにして座っている狼鬼は酒を杯に注ぎながら笑った。
旅館に戻ってから直ぐに狼鬼は水月を抱いた。
水月の怒りを抑える為で、一度だけにしようとしたが水月が嫌がり結局は夕方近くまでする羽目になった。
しかし、まだ夜は長い。
この後もまだ続く事だろう。
狼鬼にとっては別に女一人を一日中、抱いても疲れない。
何しろ妖しなのだから。
現在、狼鬼は弦水の後を継ぎ領主として働いている。
本来なら詩織姫を正室に迎えるのだが、生憎と彼の好みには合わない。
せいぜい側室止まりという所だろう。
現在の正室は二人居る。
一人は目の前で食事をしている水月。
もう一人は自分が頭を素手で粉々に砕いた主善の妻である鈴鹿だ。
何でも元は豪族だったが、主善に夫を殺されて娘ともども攫われたらしい。
狼鬼は親子を引き取り客人として持て成す事にした。
しかし、鈴鹿が義理か恩義を感じて、自らの身体を差し出して来た。
それでなし崩し的に関係を持ち、それに嫉妬した水月も加わった。
互いに譲らないので二人を正室に迎えたのだ。
現在、鈴鹿は狼鬼に代わり領主として治めている。
もちろん後で報酬は頂く事になっているが。
「所で、狼鬼様」
「何だ?」
水月が箸を止めたので、自分も酒を止めた。
「先ほど、ここに来て懐かしいと言っておりましたが以前に来た事があるのですか?」
最初にこの国に来て狼鬼は「懐かしい」と言った。
それで水月は訪れた事があるのでは?と推測したのだ。
「まぁ、100年も前に住んだ事があるんだ」
たまたま訪れて空気が合うのか、心地よかったので住み着いたらしい。
そこで剣術などを教えたとも言った。
「ここで静、という娘と会ってな。幼いが剣の腕が立っていた。今頃は夫を持ち、子を育ているだろうな」
懐かしさを見せながら狼鬼は酒を飲み直した。