侍物語〜サムライストーリー〜 第二部 34
女は刀を向け静に切り掛かった。
『母様っ』
朱美は悲鳴を上げた。
静は素手で女の攻撃を防御する。
しかし、静の方が不利に見えた。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
『ここは、何処かしら?』
静は辺りを見回した。
着ているのはボンテージだった。
下は黒いロング・ブーツと呼ばれる履物だった。
フェシリアが住んでいる場所ではない。
荒野ではなく、竹林だからだ。
そこへ瑞穂と同い年くらいの女が現れた。
男物の着物を着ており、見るからに美丈夫だ。
鋭い視線が静を射止める。
「貴様、何者だ。ここは葛馬の領土だぞ」
『葛馬?聞いた事もない地名ね』
まさか、また別の世界か、と静は思った。
「奇怪な格好、忍の者か・・・・・・」
女は静の格好を見て腰の刀を抜いた。
「ま、待って下さい。私は怪しい者では」
「問答無用!!」
女は静の言葉を無視して切り掛かった。
静は間一髪の所で避けると後ろに跳んだ。
女が跳躍して襲い掛かる。
静は話し合いが無理だと悟った。
『やるしかない』
静は徒手空拳の構えを取り迎え撃った。
刀を避け、女の腹に拳を打ち込む。
微かに女が前のめりになった。
そこへ膝蹴りをやり、頭に肘打ちをお見舞いした。
それでも女は怯まずに組み敷しこうとしてきた。
静は地面に後ろから倒れた。
そして女の股に足を入れ巴投げをした。
「ぐわっ」
女が悲鳴を上げて、刀を手放した。
駆け寄って落ちた刀を取り女の首に当てた。
「大人しくして下さい」
白い刃を女の喉に当てて、静は呼吸を整えて喋った。
女は、悔しそうに歯軋りしながら静を見た。
「貴様、この私を打ち倒すとは大した奴だ。名を聞いておこうか?」
「静です」
「静か。良い名だ。我が名は夕霧。葛馬の領主、葛馬主繕様の長女、詩織姫様に仕える者だ」
「その方がどうしてこんな所に?」
「剣の修行のためだ。お前は?我が領土に偵察にでも来たか?」
「気が付いたら、ここに居ただけです。私は貴方の領主にも領土にも興味はありません」
そう言って静は刀を遠くへと投げた。
「今日の事は二人だけの秘密にしましょう。そうすればお互いが無事でいられます」
静はこの女が下手に公にする者ではない、と解かった。
自らも剣を握る者だからか、こう言った女の心情は分かるのだ。
「・・・良かろう。ただし、次に会ったら貴様を組み敷いてやる」
「・・・楽しみにしております」
静は自分の口から出たとは思えない言葉を吐いて、夕霧の唇を奪い取った。
正確に言えば、無意識に身体が動いていたと言った方が正しい。
「んむっ・・・んっ・・・」
夕霧は静の口付けに驚いたが、口付けを甘んじて受けた。
軽く口付けをした静は竹林を走り抜けた。