無人島生活 12
赤いドラゴンは警戒心をあらわに俺を見てくるが、俺を狙っている……わけではないようだ。
何かを探しているようにあちこちに視線を向けたり、何かのにおいを探しているように見えた。
その瞳は、まるで……失った何かを探しているようで、俺や俺の妻達を捕食するためにきたわけではないらしい。
『グルルゥゥーー……』
寂しげに哀しげに、誰かを呼ぶように遠吠えしている。
俺は、コイツが捕食に来たわけではないと確信した。
捕食したいならこんな行動をとるわけがないし、一気に襲えば俺や妻達の誰か、合わせて二人や三人は喰ってしまえたはずだからだ。
俺はドラゴンに近づいて、その顔に軽く手を当てる。
触感は、ワニなどの皮を分厚くしたような感じだ。コイツが漂わせる悲しさは、何か生き別れたような……
「お前……ひょっとして、何かを探しているのか?」
「グウウ……」
「手伝ってやるよ。ひょっとして、子供がどこか行っちまったのか?」
俺が両手を動かして身振りで小さなドラゴンの形を作った。
するとドラゴンが同意するように首を振り、納得したように唸った。
「グオゥ」
「そうか、そいつはどっちに行ったんだ?」
「グゥゥ」
「あっちなのか……俺達は見かけなかったが、俺が一緒に探してやるよ。だからそんな悲しい眼をするな」
俺も、いまさっき父親になったばかりだ。トレーシー達は無事だろうか?
彼女達も俺の事が心配だろう。
コイツの子供を早く探してやりたい気持ちと、彼女達の元に戻りたい気持ちで俺も引き裂かれそうだ。
だからこそ、みんなの為にコイツの子供を早く見つけてやらないといけない。
俺はそう思いなおし、どうして行方をくらましたのか考える。
「グルオー!」
俺達はあたりを探りながら進んだ。時々、子供を呼び、吠えている。
幸い海岸沿いで、割と見晴らしが効く。
「餌かな?」
俺は手に持った何かを食べるしぐさをした。
ドラゴンはそれを見て、軽く首を振る。
「こっちだと思う。結構果物や魚が取れるんだ」
「グフッ」
俺が指し示す方向に、ドラゴンが歩きだした。俺の考えを受け入れてくれたようだ。
「グルオー!」
「クゥゥ〜」
「おい!」
「グルルオー!!」
「クゥゥ〜」
何度目かの吠え声の後、4秒ほどしてかすかな幼い声が返ってきた。
俺が声をかけると、コイツももっと大きな声で吠え、また4秒ほどして同じ声が返ってきた。
声を出して、返答が返ってくるまで4秒ってことは、約750m先にいるって事だろう。
歓喜の声を挙げて、ドラゴンが駆け出す。
俺もあわてて付いていったが、ドラゴンの脚は速く、おいていかれる。
「クルルゥ!」
「グオ、グオ!」
俺が追いついた時、ドラゴンは小さなドラゴンと一緒にいた。仔竜が親竜を甘噛みしたり、摺りついたりしている。
良かった。さっきいきなりドラゴンが現れた時は驚いたが、単に子供を探していただけだったのだ。本当に良かった。
「良かったな。達者で暮らせよ」
「グォー!」
「クー!」
親子とも、嬉しそうな声で俺に感謝するように吠えた。