離島 1
淡島
曾て、その存在を認められず、何処かへと消え去りし島
「その名を冠したこの島が、新しい仕事場か…」
何処とも知れぬ島
其の港に降り立って猶、いやそれ故にこの事を皮肉らずにはいられないのだろう
「にしても瑞智―ミヅチ―の奴は、心配為すぎ何だよ。記憶何て気にする事でも無いだろ。なぁ、月―ユエ―」
何処となく嬉しそうな男の言葉に
「えぇ、そうですね。本当に……」
月と呼ばれた女性もまた、言外に優しさを携えていた
「お久しぶりです。恵比寿の旦那。」
「久しいな、瑞智」
旦那は今だに俺の事を昔の様に扱ってくれる
「案時のボウズが、今じゃ立派な組織の頭とはな」
旦那は、まだ下端だった頃俺の事を助けてくれた恩人だ
「あの時、もし貴方に逢えていなかったらと思うと、寒気が為ますよ」
「それで今日は一体何の様だ。」
「えぇ、今日は掃除をお願いに来ました。実はウチの方が買い取った島に化け物が出ましてね。ソイツ等を何とか為ていただきたいのです」
「………」
アヌビス、それがその化け物の名だった。
例えではない、本当に名の通りアヌビスとしか言い様の無い外見をしているらしい。
日本の島には合わない化け物に思わず苦笑が漏れそうになるが我慢した。
エジプトに現れれば良いのに、よりによってなぜ?と思っていたらその答えは旦那が話してくれた。
そこが地図から消えている事を良い事に、ある弱小犯罪組織が船でなにか盗品を持ち込んだのだ。
それだけならまだ身柄確保も出来た。ところが、船が停泊した直後からアヌビスも現れどうにもならなくなった。
彼等の持ち込んだ盗品に秘密があるのは明白だった。
全くなんて人騒がせな奴等だ。
そいつらが自滅するのは良いが、旦那にまで迷惑をかけるとは。もはや、放置してはおけない所まで事態が悪化している。
しかしまあこの騒動のおかげでちょっとしたまとまった金が手に入ったから良しとするか…。