若妻たちの秘密 19
「そういえばさ、そろそろ文化祭だっけ」
「はい!」
同じ高校の先輩後輩である梢と葉月がそう言い合う。
「へぇ…文化祭かぁ。懐かしい響きねぇ」
蒔絵が優雅にコーヒーを飲みながら言う。
「一般参加できるところないですかねぇ〜、蒔絵さん一緒に行きません?」
美桜が蒔絵の隣に寄り添う。
「私たちでかぁ…そうねぇ、行ければねぇ…」
蒔絵はコーヒーの入ったカップをテーブルに置いて考える。
普段から自分のことを慕ってくれる妹のような存在の美桜に言われると、蒔絵もなかなか断れない。
「じゃあ蒔絵さんと美桜ちゃんでうちの高校の文化祭、どうです?」
「葉月ちゃんの母校?」
「はい」
「公立ってなかなか一般参加じゃないって聞くけど、大丈夫なの?」
「はい、蒔絵さんと美桜ちゃんなら十分いけると思います!」
「…?」
葉月と蒔絵、言っていることが噛み合っていない。
美桜が首を傾げる。
「どういうこと?」
「2人で、これを着て文化祭に潜入するんですよ〜」
葉月が掲げるのは先ほど自分で出した母校の制服。
ニコニコ顔なのはいつもの彼女とまったく変わらないのだが、それを向けられた先、蒔絵の表情は引き攣っていた。
「いや、あのね、葉月ちゃん」
「はい、どうしました?」
「私、もう24だよ。人妻だよ?いくらなんでも、それは無理があるんじゃないかなーって思うのよね」
「蒔絵さんなら大丈夫ですよー」
そう言うのは梢だ。
「そ、そうね。じゃあ女子高生っぽい下着や靴もいるわ」
「校舎の中がどうなってるかわからないとだめ。せめて、校長の名前ぐらいは知っておくか」
蒔絵は乗り気になったものの、案外肝心なことは分かっておらず、むしろ美桜はちゃんと葉月の
学校の生徒として溶け込むための方法を探る。
「それなら簡単だよ。建物はそんなに立派じゃないし」
葉月はチラシの裏に校舎内の地図を書く。美桜の食いつきは良かったが、蒔絵はついつい妄想
ばかりしてしまう。