大陸魔戦記 129
続いてセリーヌは、アグネスに続いて扉の向こうに目をやるなり、驚きの表情でジルドに目を向ける。こちらも言葉が出ないようで、口はぽっかりと開いたままだ。
そしてジルドは、ため息を一つつくと巨漢を引きずって二人の脇を通り過ぎ、再びため息をついた。
部屋の中央に、盗賊らしき格好の男達が集まっていた。
――否、集められたと言うべきか。
彼らは縄で縛られた様子もないのに、互いに背中を突き合わせて床にべったりと座ったまま、じたばたともがいている。
加えて、口をぱくぱくしていながら、声や音が全く発せられていない。
全くもってわけのわからないこの状況。それへの答えを求め、セリーヌとアグネスは一斉にジルドに疑問の目を投げかける。
「…本当に、何があった?」
言葉を発したのは、セリーヌ。彼女はアグネスに手を掴まれたまま、疑問の言葉も投げかける。
「…できれば、気付かれないうちに済ませたかったんだがな」
それに対し、ジルドはため息の後に呟く。そして、ずっと掴んでいた巨漢を無造作に投げた。巨漢は容易く宙を舞いながら、何故か動けない男達に向かって落ちていくのだが――
「「…あっ」」
二人は声を上げる。
巨漢が男達にぶつかると思われた瞬間、その体がくるりと回り、男達の間にはまるようにすとんと腰から落ちたのだ。
「…見つかった以上は、言わなくてはな」
驚く二人をちらりと見てから、ジルドはやはりばつが悪そうな表情で口を開いた。
「こいつはレグスの手引きだ」
「なっ!」
「レグスだとっ?」
あっさりと告げられた事実に、二人は信じられないといった態度をとった。するとジルドはため息をつきながら、「よく見てみろ」と言って指を指す。
――そこには、確かにいた。
噴水広場でジルドにわざわざ絡んできながら、ジルドが少し威嚇しただけで腰を抜かした男――レグスが。
「…御本人様がいる事が、何よりの証拠だ」
確かに、何よりの証拠である。しかし、セリーヌは何故か解せない。
闇討ちなどは、かなり卑怯な手である。それを使う以上は、後々後ろ指をさされないようにするために、けしかけた本人は参加しないのが常であるはず。それなのに、ジルドの言う「けしかけた本人」――レグスは、自らも参加している。
仮にレグスが首謀者だとするならば、何故わざわざ気付かれるリスクを背負うのであろうか。
その疑問を、セリーヌはジルドにぶつけてみた。――するとジルドは。
「前回の襲撃の時も、こいつは一団に混ざって俺に向かってきた。どうやら、自分の気に障った奴は自分も殴りたい、という気性らしい」
うんざりした様子で、ため息まじりに呟いた。
「な、なるほど…」
「…そうなのか…」
そのあまりにも短絡的でわかりやすい理由に、二人はただ頷くしかない。