もうじき 6
民宿から途中までは車が通れる登り道が二時間ほど続いていたが、その先は林の中を人が通った跡があるから道だが、ちゃんと戻れるか心配な山道だった。
智美の地図がなければ、遭難するだろう。
石仏などがぽつりぽつりとある。それが目印になる。昔は山奥には村があったらしい。あと猟師小屋などもあって猪などを捕っていたらしい。
今は猟師小屋などもなくなっている。
山道のわきが斜面だったりするところも多い。民宿のわきの河原は山から沢があってそれらが流れ込んでいる。滝なんてあるのかと思い歩き続けていると、ぽつぽつと草木を雨粒が叩く音が聞こえ出した。
山道の途中で古いお堂のようなものを見つけた。服も濡れてしまったので、その中に入る。
お堂の中は廃屋ではない。
木の床に新しいござが敷かれてある。
神棚がありしっかりと掃除されていて、写真なども飾られていたり、木彫りの人形などが床に並んでいた。
「民宿からここまで歩いてきたんですか」
燭台がありそこに蝋燭が立てられ灯してくれた。お堂の中の中央にランプを置いて中は明るい。
「雨が止むまで待ちましょう。山の天気は変わりやすいのでおで驚いたでしょう」
山奥で白い着物に赤い袴の巫女さんの衣装を来た女性に会うとは思わなかった。
「このあたりの地域は部落だったんです。彼差別部落といえばわかりますか。猟師の村があったんたんですよ」
士農工商の身分制度よりも、もっと下の身分が江戸時代にはあった。その差別は文学作品などでも題材にされてきた。
島崎藤村の「破戒」などが有名である。
「私は村木恵美といいます。もっと山の上にある神社の者です。
お堂も神社の管理なんでこうして、たまに掃除をしたりするために下りてきます。
地元の人以外が来るなんてめずらしいので、驚きましたよ」
「男子禁制の神社?」
「そうです。日本神話のイザナギとイザナミの話はご存じですか?」
イザナギという男神とイザナミという女神の話は有名だが、神社ではイザナミを崇拝していて男子禁制なのだそうである。
「このお堂も男子禁制ですか?」
「いえ、神社に願かけできない村人たちのために作られたらしいのですが、村人たちの集会所のように使われていたようですから、問題ないかと」
雨はまだ止まずに強まったようだった。
「まいったな、夕方までに帰れるかな。携帯電話も使えないから、民宿に連絡も取れない。
山奥では、不便ではありませんか?」
「電気も電話もありませんから、不便かもしれませんが、私は生まれてからずっと山暮らしですから、これが普通なんですよ」
巫女さんの村木恵美は二十代後半から三十歳ぐらいだろう。