先祖がえり 79
「では・・・あなたの方からも言っておいてくださいね?」
「か、かしこまりましたぁ!!」
深々と頭を下げる美咲。それに合わせて千恵も
「申し訳ありませんでした!!」
再度謝辞を述べる。それを見た加奈は
「・・・ふぅ、仕方ないですね・・・では、部屋を片付けたら食堂に向かってくださいね。出来るだけ早くお願いしますね?」
いつもほどではないが、苦笑いともいえる小さな笑みと共に部屋を後にしていった。
「は・・・はふぅ〜・・・」
加奈が退室した後、千恵は緊張の糸が切れたように大きな溜息を一つした。
「はふぅ〜じゃないわ!どうしてこんなことをしたの?!」
近くに居た美咲は千恵に厳しい声を浴びせる。
「そ、それは・・・」
「昨日言ったわよね?早起きをしなさい。加奈様を怒らせるようなことはしてはいけないって。」
「はい・・・ですが、私どうも掃除とか早起きとかが苦手で・・・」
バツが悪そうにする千恵。
「でもこれで分かったでしょ?加奈様は普段とっても優しいし、仕事の出来る方だわ。でも、それと同時にとっても厳しい方なの。」
「はい・・・私、あそこまで怒られるのが恐ろしいって思ったの初めてです。」
今思い出しただけでも軽い武者震いを覚えるほどだ。
「でしょう?だから、これからは掃除も早起きもきちんとするのよ?」
「で、でも・・・私には難しいかも知れません・・・」
自信が無いのか俯く千恵。それを見た美咲は
「・・・そうだわ!ちょっと待ってて。」
そう言って部屋を出る美咲。
すると美咲はもう一人連れてすぐに戻ってきた。
「ち、千恵ちゃん・・・何この部屋・・・」
連れてきたのは亜紀である。亜紀は千恵の部屋に入るや否や部屋の散らかりように驚いていた。
「あ、あはは・・・さっきはそれで加奈様に怒られちゃって・・・」
照れくさそうに笑う千恵。
「それでさっき加奈様に怒られてたのね・・・」
納得した様子の亜紀。
「それで、亜紀さん。あなたにお願いがあるの。千恵さんがきちんと掃除が出来て、早起きも出来るようになるしばらくの間、あなたにも手伝って欲しいのだけど・・・」
「と、いいますと?」
「つまり、千恵さんには千恵さんで出来る限り一人で掃除や早起きを頑張ってもらうわ。でもどうしても上手くいかなかった時はあなたの手を借りたいの。ダメかしら?」
「だ、ダメではありませんが・・・」
自分の世話だけでなく千恵の世話までしなければいけないのかと思い言い淀む亜紀。
「亜紀ちゃんお願い!この通り!!」
「・・・わかりました。引き受けます。」
しばらく悩んだ様子だが、千恵の必死のお願いに押された形で亜紀は受け入れた。
「ありがとうね、亜紀さん。では、早速だけど、部屋の掃除の指導をお願いできるかしら?諸々が終わったら食堂に来てもらったらいいわ。私から加奈様に伝えておくから。」
「わかりました。じゃあ千恵ちゃん、お掃除するよ!」
こうして朝の騒動は幕を閉じた。
一方こちらは狐太郎の部屋。
「う、うぅ〜ん・・・」
目を覚ました留美はいつもの調子で起き上がろうとする。
しかしそこで違和感に気づく。
「・・・? あれ?」
そう、何かが体にしがみついているのだ。それに周りの風景もいつもと違う。
そこで彼女は気がついた。
(あ、そうか。昨日・・・)
念願の狐太郎との添い寝を果たした彼女。つまり・・・
(あ・・・やっぱり♪ ふふっ・・・朝からコタちゃんの寝顔が見られるなんて、なんて素敵なの♪)
彼女の目の前にはまだ気持ちよさそうに眠っている狐太郎の姿が。
狐太郎は留美の腰にしがみつき、その巨大な胸に顔をうずめている。
その様子に留美は母性溢れる笑顔を浮かべると、そのまま狐太郎の頭をなでなでする。
狐太郎は頭を撫でられるのが気持ちいいのかくすぐったそうに笑顔を浮かべ、耳や尻尾を動かしている。
留美はそのまま動かずに狐太郎をじっと見つめ、頭を撫で続けていた。というより「動けない」のである。
今狐太郎は留美の腰にしがみついている。つまり留美が起きようものなら狐太郎を起こすことになってしまう。
気持ちよさそうに眠っている狐太郎を起こすなど、絶対にあってはいけないこと。それゆえ留美は狐太郎が自然に起きるまで狐太郎を眺めることにした。
(コタちゃんの髪って、ちょっと茶色いのね。サラサラでいい香り・・・)
この機会に狐太郎の隅から隅までを見ようと目を凝らす留美。
その時である。
「自覚がなさすぎです!!」
部屋の外から聞こえてきた声。そう、先ほどの加奈の声だ。どうやら、朝の透きとおった空気もあってか運悪くここまで響いてきたらしい。
そして