先祖がえり 80
「んん?う、うぅ〜ん・・・」
その声で狐太郎が起きてしまったのである。
「あ、あら・・・コタちゃん?起きちゃったの?」
少し慌てた様子の留美。なぜなら今の狐太郎は「起きた」のではなく「起こされた」のである。
「・・・なんの声?」
寝ぼけた様子の狐太郎だが、そのセリフから、今の声で起きたということが確証に変わる。
そしてしばらくした後
「(コンコン)失礼します・・・ご主人様?留美様?」
大声の主がやってきた。どうやら千恵を叱った後、直接やってきたようである。
しかし出迎えた声は加奈の予想していない声であった。
「・・・加奈ちゃん、どういうつもりかしら・・・?」
狐太郎に分からせないため、そうみえないように努めている留美だが、明らかに怒っている。
「えっ?あ、あの?」
なぜ怒られているのか分からない様子の加奈。分からないまま謝っても良くないので、自分の犯した罪を聞こうとする。
「・・・今の声、加奈ちゃんよね?」
「え・・・あ、はい。」
「・・・もしも、もしもよ?今の声で『コタちゃんが起こされた』としたら、あなたはどうするかしら?」
「!!!!!」
少し皮肉を交えながら自分が怒っている理由を加奈に伝える留美。
加奈はその一言で表情を一変させ
「あわわわわっ!!も、申し訳ありませんでした!!」
慌てて頭を下げる。
しかしその声にも狐太郎は驚いたのか
「ひゃうっ!」
小さな叫び声と共に留美にしがみつく。
狐太郎のその様子に留美の怒りはさらに大きくなる。
「か〜な〜ちゃ〜ん?!」
我が子を守る母のような顔で加奈に対峙する留美。その手は怒りながらでも狐太郎を安心させるために頭を撫でている。
「す、すみません!すみません!!」
罪を重ねていくことに慌てた様子の加奈。何度も何度も頭を下げる。
しかし留美は
「・・・私に謝ってどうするの?」
謝る対象が違うことを指摘する。
そのことに気がついた加奈は幾分落ち着きを取り戻した様子で狐太郎のもとへと近づき
「ご、ご主人様・・・私の声でご主人様の安眠を妨げたどころか怖い思いまでさせてしまいました・・・申し訳ございませんでしたっ!」
狐太郎のそばで深々と頭を下げる加奈。留美は狐太郎を抱きながら加奈を非難するような目で見ている。
すっかり目が覚めた様子の狐太郎は
「う、うん・・・いいよ。」
そういって加奈を許す。
その一言に加奈はホッとした様子を見せる。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
しかし
「・・・コタちゃん、ちょっと待っててね。加奈ちゃん、いらっしゃい。」
留美は狐太郎を抱くのをやめると、加奈を部屋の隅に呼びだす。
(・・・留美様・・・)
(今回はコタちゃんに許してもらえたから良かったけど・・・加奈ちゃん、私の命令を覚えているかしら?)
(はい・・・ご主人様を起こすようなことは絶対にあってはならない・・・と。)
(ええ、そうね。でもあなたは今日コタちゃんを起こしてしまった。そうよね?)
確認する留美。
(はい・・・)
加奈も申し訳なさそうに頷く。
(そうね・・・あなたには罰を与えるわ。)
やはり といった顔で留美の罰が言い渡されるのを覚悟して待つ加奈。
思いつく罰と言えば 中出しを一回我慢 一つ小さいサイズの服を着る 一日抱っこ禁止 などだろうか・・・
そして留美の口から罰が言い渡される。
(・・・あなたは今日一人でコタちゃんのお世話をしなさい。それが罰よ。)
(・・・はい?)
予想もしていなかった罰が言い渡されたことに驚く加奈。
留美は続けて
(あなた以外のメイド達には学校があるわ。私は今日コンツェルンの方で仕事に呼ばれてるし。美咲ちゃんは私が学校に居ないから教頭として学校に行くだろうし・・・そうなると今日はあなた一人なのよ。)
(あの・・・ご主人様が学校に向かうのは?)
その選択肢もあるはずだ。そう思って留美に聞く。
(・・・聞こえなかった?私は今日会社の方に呼ばれてるの。つまり学校にはいないわ。それなのにどうしようってわけ?)
(あ、なるほど・・・)
留美が居ないのでは学校で狐太郎を守りきれないかもしれない。それだったら安全な屋敷で今日一日を過ごした方がいい。
(安心しなさい。私も仕事を早く終わらせるわ。お昼すぎには戻ってくるつもりよ。だからそれまでは・・・ね?)
(で、ですが・・・それでは罰というよりむしろ・・・)
一人で狐太郎の世話が出来るのである。それは加奈にとっては罰にならない。
それを言おうとした時
(いいわね?罰をしっかり受けて反省しなさい?そして、コタちゃんにしっかり許してもらうのよ?)
加奈の話を遮り、あくまで「罰」として話を進める留美。
その顔は優しかった。なんだかんだいって二人は親友とも呼べる仲なのである。
(・・・は、はいっ!)
加奈はその顔を見て嬉しそうに返事をした。
その後食堂に向かった一行。
食堂では先ほど怒られた千恵が待っており
「加奈様、先ほどは本当に申し訳ございませんでした!!」
改めて謝る。