先祖がえり 110
「コタちゃん、今日学校はどうする?」
食事の後、狐太郎は留美に抱かれて寝室へと向かう。
他のメイド達は食事の後片づけをしている。
「う〜ん・・・今日は・・・」
悩んだ顔をする狐太郎。
その様子に
「やめとく?」
狐太郎の意見を尊重しようとする留美。
「うん・・・今日はそんな気分じゃないんだ・・・」
狐太郎は留美の言葉を肯定して返事をする。
「・・・どうしたの?具合が悪いの?」
留美は心配した様子で狐太郎を覗く。
しかし狐太郎は苦笑いを浮かべて
「もうっ、そんなんじゃないよ。安心して、お姉ちゃん。」
冗談めいて笑顔を見せる。
「!!! そう・・・ならいいんだけど・・・」
しかし留美はまたも肩をビクッと縮める。どうやら「もうっ」の部分に反応したようだ。
その様子を見て
「・・・・・うん。大丈夫だよ・・・」
また先ほどの悲しそうな目をする狐太郎。
しかし狐太郎は留美の胸の中に顔をうずめているので、その顔を留美にみられる事は無かった。
「・・・じゃあ、お姉ちゃんも今日はお休みするわ。」
「えっ、いいの?」
「ええ。コタちゃんに寂しい思いはさせたくないもの。」
そう言うと留美は狐太郎に微笑んで見せる。
「・・・・・ありがとう。お姉ちゃん。」
その顔を狐太郎は複雑そうな目で見つめていた。
「留美様、加奈様・・・狐太郎様のことをよろしくお願いいたします。」
登校の時間になって一同が玄関に集まる。
美咲は心配そうな目で加奈、留美、そして留美に抱かれている狐太郎を見回す。
「大丈夫よ、美咲ちゃん。私も、それに加奈ちゃんだってついてるわ。」
「ええ。美咲さん、安心して下さい。」
3人は笑顔で美咲達を見送る。
留美や加奈の言葉に少し安心したのか、美咲は狐太郎の方へ近づき
「・・・狐太郎様、行ってまいります。」
愛する主人に挨拶をする。
そして後ろを振り返ると
「さぁ、あなた達も、行きましょう。」
美咲は真由達4人を連れて屋敷を後にする。
「行ってらっしゃい、美咲〜〜」
狐太郎は留美に抱かれながら手を振って見送る。
しかし
「きゃっ!!」
急に手を挙げたせいか、驚いた様子の留美。
しかしその驚き方は少し過ぎているように思える。
まるで狐太郎が何かするのを恐れているかのような・・・
「・・・お姉ちゃん・・・」
その様子を見てまたも一瞬悲しそうな顔をする狐太郎。
留美はその顔に気づかないまま
「あっ・・・ごめんね、コタちゃん。大きい声出しちゃって・・・」
自分の胸の中の狐太郎に謝る。
「・・・ううん。僕の方こそごめんね。いきなり手を挙げちゃったから・・・」
狐太郎は悲しそうな顔から申し訳なさそうな顔に表情を変え、留美を見上げる。
「いいのよ・・・さ、コタちゃん。お部屋に行きましょうか。」
留美は狐太郎を抱きなおすと狐太郎の寝室に向かうことにした。
しかし
「・・・ご主人様・・・」
加奈は狐太郎の表情の変化を敏感に感じ取っていたようだった。
(・・・やっぱり・・・僕のせいだよね・・・)
寝室に向かいながら一人考えにふける狐太郎。
(・・・お姉ちゃん、僕の事怖がってる・・・)
今朝から留美の反応がところどころおかしい。狐太郎はその原因をうっすらと確証していた。
(・・・昨日・・・僕が・・・)
心当たりはあった。昨日のことだ。
狐太郎が留美や加奈、美咲にした「お仕置き」である。
もしかしたらあれのせいで・・・
狐太郎の頭の中には様々な思惑が渦巻いていた。
しかしただ一つ確実なことは
(・・・お姉ちゃんに・・・怖い思いをさせちゃってる・・・)
その事実だけであった。