女学園の王子様 6
「生徒手帳が交付されてないから……学食や購買部は電子マネー決済なのよ。あっ最寄りのスーパーは現金での支払いも出来るからね」
レナの説明によると生徒手帳は入学式の後に交付、中等部及び高等部の新入生の入寮は入学式の前日まで……が事情により入寮が早い子も出てくる訳だ。
「制服のままで大丈夫なんですか?」
「全然……」
スーパーマーケットは学園内から直接アクセスできる……まあ不測の事態に備えてゲート式セキュリティシステムも完備されておりガードマンも常駐する。
「歩ちゃん仮パス首からかけて」
仮パスと呼ばれるICカードを取りだした。生徒手帳が貰うまではこれが身分証明になる。
「おや新入生かい……」
「はい」
女性のガードマンは生徒手帳を確認し仮パスを見て言う。
「今日は彼女の歓迎会です」
「そうか……副長も大変ね」
レナの言葉にガードマンも同情する。
店内を見ると確かに女学園の生徒の方が多いし、ハウスメイトコースの生徒もチラホラ……地域の人も平然としているのは慣れているのだろう。
「あっ、ユカさん……あの」
「先程はとんだ事を……」
頭を下げようとするも歩は首を横に振る。
「私も気持よかったし……そのまた」
「はい……」
これにはルームメイトも驚く……ユカの場合激し過ぎるので一回交わると躊躇する生徒や教師がほとんどだ。
「(……まあ、王子様制度は追々説明するとして)」
レナは薄ら笑いをするしかない、これは総長ですら腰を抜かしかねない。
「自炊するんですか?」
買い物籠には食材がぎっしり……。
「ええ、ハウスメイトコースの子は夕食は自炊にするのが慣例なんです……」
決められたテーマや予算内で尚且つ栄養食彩のバランスを競うのだ……これが国民食であるカレーになると海自でも一目置く傑作が時折出てくるらしい。作り置きや下拵えの回数すら制限が掛る事もある……学年が上がると難易度が高くなると言う。
「じゃ、がんばってね」
「はい副長」
ユカは恭しく頭を下げた。
寮室に戻り調理する。歩は早くから育った環境上“包丁の扱いに慣れて”いる……料理の基礎は小学校時代は誰よりも上で調理実習の際にもいかんなく発揮された。先生からも授業が大惨事にならないで済むとして感謝された事もある。
「手際がいいわねぇ」
「もう慣れているから……」
キャラバンに居た頃は他の職員と一緒に園児から低学年の子を見つつも毎日夕食作りをしていた……それだけ児童養護施設に携われる大人は少ない。歩の様に大人しく従う子は珍しく大抵がギャング等に社会的不適合に堕ちる、キャラバンに預けられるも脱走した少年や少女が居て探し当てた時には手遅れでキャラバンに置けない状況、即ち違法薬物中毒や遺体になる事だ。歩が低学年の時に運悪く続発してしまい事情知らずの世間からの誹謗中傷に園長先生も悩んでいた事は覚えている、だからこそ歩は勉強に打ち込み年下の子を面倒を見る事に優先するようになる……小学校内で孤立しても気にする事はない、他のクラスメートの保護者は孤児である私に我が子と友達にはなってほしくないのが本音なのだ。
「……歩ちゃん、何か悩み事?」
「いえ、今までこんな事はした事なかったので……戸惑っているだけで」
レナも中学進学と同時に父の実家が渋々引き取ってこの学院に入学した経緯を持つ……かつての自分も歩同様の表情をしていたから分かるのだ。
「久美先輩、噴きこぼれる!」
「わたたぁああ!」
こんな雰囲気でも馴染めないのはやはりキャラバンの事が気がかりだ。
学生寮は大浴場がある……各部屋にはシャワールームがあるがやはりこちらの使用頻度が高い。
「あの……本当に」
「大丈夫って……」
歩は恐れつつも更衣室風脱衣所で服を脱ぐ。因みに制服はドレス同様にクリーニング業者が一手に引き受けるシステムである。
「なにあれ……」
「凄い、胸もそうだけど」
その場に居合わせた女学生らの視線で歩はドキぅとする。
「副長……」
レナを見つけた一人が尋ねる。
「彼女、新入生よ……今日から入寮した櫟 歩さん」
名字を聞いた途端に驚くのも無理はない、櫟家は戦前からの名家だ。