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「いきなりこんなこと言われても難しいだろうけど。
嫌うならその感情を私に転嫁してくれても構わない。だから体を見捨てたりしないで欲しいんだって、あ〜自分でも何をいてるのかわからなくなってきた」
「わかった。わかりましたから。会長が言いたいことはおおむね理解できました。
この身体の事を嫌がらないように努力します。
それよりいいんですか?戻らないと次の時間の準備に間に合わないかもしれませんよ」
「ああ、ありがとう。
取りあえず、私の言ったことを考えておいてくれ。
それと言われてると思うけど保健室で…」
「カウンセリングですね。何かあったら抱えずに受けます」
「約束だよ」
会長はそう締めると走らず急ぎ足で自分の教室を目指した。
「ふう」
武は通り過ぎた台風の様な会長の剣幕から解放されて一息ついた。
まさに自分の体に嫌悪を感じていた時に言われたので武は「どうしたものか」と考えてしまった。
(取りあえず拭かないと気持ち悪いな)
武はトイレに行った。
休み時間が半分過ぎて誰もいないトイレ。
武はトイレットペーパーを取ると股間を拭って流した。
ついでに小便器で用を足す。
「なんだかな〜」
慣れない体に不便を感じながら武は呟いた。
教室に戻って会長から言われた言葉を思い出す。が、すぐに男子達に囲まれて考えてる時間は無くなった。
「武よ、会長の言う通りだぜ」
クラスメイトの1人が言う。その言葉に、周りのクラスメイトも何故だかうんうんと頷く。
「せっか……げふんげふん、女になっても武は武だろ?」
「そうそう。あんまり投げやりになるなよな」
「俺たちは皆でお前の力になるからさ!」
すぐには思考が切り替わらない武がポカンとしていると、矢継ぎ早に発言が繰り返される。
心なしか皆の瞳は、欲しかったものを見つけた子供のように輝いていた。
「お、おぅ……」
武は、とりあえずの生返事しか出来なかった。
受け入れる事を悩んでいた所に、こうも前向きな肯定を受けては腰が折れてしまう。
授業開始のチャイムと共に、クラスメイトの輪は武を中心に分かれていく。
彼らの言葉を反芻しながら、武は少しだけ笑顔を作った。
(俺は俺、だよな……)
武も皆と同じように2限目の準備をしていると、教室に次の教師が入ってくる。
やはり武に対する視線は刺さるような感覚はするものの、当の武は意にも介さぬ様子。
(もう何か慣れたな)
授業を受けながら、武はどう教師を貶めてからかってやろうか考えていた。