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会長はシャツを武の机の上で丁寧に畳む。
「紫藤君。確かに流れ星に願いをかけた僕達は女の子になった君にみだらな願望を抱いていたろう。でも、それは決して力づくで君を犯すためじゃない。
それは、その、…そう!プラトニックに君とつきあいたかったんだ!」
「プラトニック…」
その単語に武は愕然とした。
怒りが突然消えたと言うよりすっぽりと抜けて落ちてしまった。
怒り任せに立ちあがった足から力が抜け椅子にドカリと音を立てて座った。
「くっぷははは!」
武は弱弱しく笑った。会長の賢明さもだがプラトニックと言う単語がとどめだった。
「何か、私は変なことを言ったか?」
会長は慌てて周りを見渡すが、武の笑いの正体に気付ける男子はいなかった。
「プラトニックが変なら、その…そう、ピュアな思い…!」
「ぶはははは!」
武は腹を抱えて大笑いした。
「も、もういいです会長。もう、あはは!苦しいから・ははは!」
武の怒りはすっぽ抜けた。
昨日、病院から帰ってきて「もうどうでもいい」という負の感情は明るい方向の「もうどうでもいい」に変わり始めた。
自分であきれるほど単純な思考。だが、一晩で性別がガラリと変わってしまったのだから思考もそのぐらいでいいのかなと考えた。
そしてもし、自分好みの女の子を見つけたらきっと今の男子達と同じ心境になったのだろうと。
(そう。僕は男子なんだ!それでいいじゃないか!)
武は自分に言い聞かせ、会長の目を見た。
「許せること許せないこと色々ありますが、会長の謝罪、しっかり受け取りました」
ポっ
「って、何でそこで赤くなるかな!?」
武に見つめられて赤面した会長に武は机の上に畳んでおかれた自分のシャツを叩きつけた。
ホームルームが始まり、担任の教師がオドオドと入ってきて武を見た。
武は登校時の荒んだ表情とは一変して晴々した顔になっていたのに驚く。
「紫藤…。あ〜、大丈夫か?」
「気にしないでください。自己解決しましたんで。気にされる方がずっと辛いですから」
「そうか。もう言われてると思うが、授業中でも保険の先生はカウンセリングしてくれるからな」
「はい」
「本当に大丈夫なんだな?」
「先生?」
「なんだ?」
「あんまり悩み過ぎるとハゲますよ」
一瞬教室に凍りつくような張りつめた空気が走った。
「はっはっは!それは嫌だな。じゃ、出席を取るか」
担任の先生は大声で笑った。
クラスメイト達は笑うべきか悩んでいたけど結局笑う人はいなかった。なぜなら先生の目の端にはキラめく物が見えたからだった。
武は心の中で先生に謝った。