戦争 16
「・・・でもなぁ」
「・・・ですわね。あのおブタさんが絶対に何か仕出かすはずですわ」
「できればここで留守番していただくのが1番なんですけど・・・。
わたくしたちの言うことを聞いてくださるなんて、とてもおもえませんものねぇ・・・」
はあっ・・・とそれはそれは重いため息をつく僕たち3人のことなど知りもせず。
憎たらしいフェラード・パズリは『何をしている!?さっさとメシを持ってこい!』と叫んでいた。
こうして僕たちは多大なストレスを抱えたまま、近くの村へ補給しに行く・・・はずだった。
だがこの時僕は忘れていたのだ。あのバカの護衛についている部下たちが、いったいどんな人物だったのかを。
長い1日が始まる前に、長い夜が始まろうとしていた―――。
フェラートはレヴィとミラに任せて、僕は一人、近くの村へと向かった。
とりあえず確保すべきは数日分の食糧と、出来れば車も欲しい所だ。
今のトラックは限界が近い。
村は少し行った所にあった。
さっそく交渉に入る。
「失礼、僕はノーランド王国軍アルア・カートン中尉と申します。こちらの村で物資・弾薬を補給したい。支払いは我が軍の軍票で…」
背中には小銃を背負い、腰ベルトには拳銃を入れたケースを下げて…これを純粋な交渉と言えるのかどうかは不明だが、とりあえず僕は数日分の食糧を得る事に成功した。
弾薬と新車の方は残念ながら叶わなかった。
こういう山村の住民は大抵銃を所持していて、常に弾薬の備蓄はあるはずだが…まあ穏便に食糧を売ってもらえたのだ。
これ以上は突っ込まないのが妥当だろう。
ついでに荷馬と馬車を借り、僕はフェラート達の待つ森へと戻った。
まさかあんな事になっているとは知らずに…
「お…おい…二人とも…嘘だよな…」
「…嘘ではありませんわ」
「現実です…」
三人の元へと戻った僕を待っていたのは、不測の事態…なんて言葉じゃ言い表せないレベルの緊急事態だった。
「…どうして!? どうしてこうなった!? ほんの小一時間ちょっとで…!!」
「だってぇ…しょうがないじゃありませんか。隊長が居なくなった途端に急に私達を求めて来たんですもの…そうしたら私達だって応じざるを得ないでしょう?」
「…そして行為が始まってから十分ほど経過した辺りで、急に胸を押さえて苦しみ始め…」
「そのまま逝っちゃった…テへ♪」
「テへ♪じゃねええぇぇぇっ!!!!」
僕はあらん限りの声で叫んだ。
僕ら三人(僕とレヴィとミラ)の足元には、胸をかきむしって苦悶の表情を浮かべたフェラート・パズリが冷たくなって横たわっていた。
「どうするんだよぉ!? 彼がいなくちゃ和平交渉できないじゃないかぁ!!やっとこの果てしない地獄の戦争に終わりが見えかけて来たんだぞ!?」
「…こうなったら、私達に残された道は一つしかありませんわね…フェラート・パズリ殿下」
そう言ってミラは僕の肩をポンと叩いた。
「……おい、ちょっと待て。何だって…?」
彼女は僕の質問に答えず、今度はレヴィも反対の肩に手を置いて言う。
「…ずっと行動を共にして来たアルア・カートン中尉が任務中に亡くなって、動揺するお気持ちは解りますが、あなたには調停役としての大切なお役目が待っているのですから…しっかりしていただかなければ困りますよ、フェラート・パズリ殿下」
「…いや無理だから!!僕がフェラートの影武者として調停会談に出席するとか、絶っ対に無理だから!!」
「でも、もうそれで行くしかありませんわ」
「腹を括ってください、隊長。この戦争を終わらせるためです」
「そんな…」
この僕が王族に成りすましてマザート帝国とカアラ連邦との調停会談に臨むだなんて…まったく無茶振りも良い所だ。
だが、もし上手くいけば…?
失敗すると決まった訳じゃない。
この機会を逃せば、また延々と戦争が続いて大勢の人が死ぬ。
僕は前線にいた頃の事を思い出した。
あの死と隣り合わせの日々を…。
仲間たちが木端のごとく戦死していく地獄のような戦い。
いつ死ぬかわからない恐怖に心を病んだものは、両手両足を使っても足りないくらい。
心をいやせたのは、戦い終わって与えられた休息時のSEX。
性の快楽だけが唯一の娯楽であり、残酷な現実からそむけていられる時間だった。
あんな地獄がなくなるのなら、ミラたちの言うとおりにするのも悪くない気もする。
戦場を駆けずり回っていたあのころに比べれば、はるかに簡単なミッションだ・・・と思いかけて、僕はあわてて頭を振ってその考えを追い出す。