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霧に包まれたコロシアム
官能リレー小説 - 同性愛♂

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霧に包まれたコロシアム 18

(わたしは、ただの、器だったのだ)

(老いて死を恐れるあまり狂った、王の、器)

(そのようなわたしに、これ以上生きてある意味などあろうか)

(………)

皇子は静かに、頭を振った。

(……無い)

(生きてある価値など、わたくしには、なにも………)

(………もう ほおっておいておくれ)

閉じられた皇子のまぶたから、年相応の少年らしい、幼い涙の粒があふれだす。

(……父が、かつて私にくださった、金冠)
いまだひたいを飾る、細い蛇が花をくわえた形のそれを、涙目の彼の指先がまさぐる。

(誕生日にくださったその贈り物こそが、淫花の呪いをかけるための、王の罠だったのだ)

(裏切って王を攻撃しようとした瞬間に発動する、呪い…)

(王は絶命したが………その時)

(その時に、呪いのために声をうしなったのだ)

(相手を攻撃すると同時に、自身の《何か》を奪われる、恐るべき呪い)

(もう誰も傷つけたくない)
そのやいばは自分を傷つけてしまうから。

(もう誰にも傷つけられたくない)
身を守らんと欲すれば、相手を殺めてしまうから。

(もう誰も失いたくはない)
これ以上何かを失いながら生きて行きたくはない。

(もう誰にも出会いたくなど……)

皇子の心は、更なる孤独の闇に沈み込んで行こうとしていた。
家族も、地位も、国民の信頼もなにもかも失なった少年の居場所など、どこにもありはしないのだ、と………。


「…!!」


「…んな!!」


石像の一体のものか、男の叫びがかすかに聞こえたような気がした。


「あきらめんな、この、クソ皇子!!」

力強い手の感触が、泣き寝入りかけた皇子の両肩を乱暴につかんだ。

「ホントにこの世からいなくなりたいなら、念話の術は解いておくべきでしたよ!!ロータス皇子!!」

涙のあとのある顔を上げた皇子が見た声の主は、同じく涙を浮かべた笑顔で、なかば怒鳴るようにそういって、彼を抱き締めるのだった。

『…戦士アドルウス!?』

「見りゃわかるでしょう皇子…」

アルビオンに襲われていたはずの彼は、どうやって切り抜けたか、からだのあちこちに傷をこしらえた姿で快活な笑みを浮かべたのだった…。

「+*;&/:@!!」
『離してくれアドル!!……念話を聞いたというなら解っておろう!!……わたしには生きている価値などもはや』

「ダマレこのクソガキ!!」

荒々しい男の叫びに念話をさえぎられ、皇子は目を丸くして押し黙る。

「俺の目の前で…」
アドルウスは激しく息をあえがせながら
「俺の目の前で、子どもが死ぬのは、絶対に許さない!!」
彼は皇子を抱き締めたままそう叫んだ。

『……アドルウス?』

「二度と言わん……俺の目の前で、死ぬとか抜かすんじゃねえ!!……おれの、愛すべき息子の……たましいにかけて!!」

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