霧に包まれたコロシアム 17
完全に脱力した石像の戦士を新たな拘束が襲う。
花粉を取り込んだロータスの尻から細い蔓の様な物が伸び出して来たのだ。
その蔓はお約束かのように挿入している石像の男の腰に絡みついた。こうしてこの男は結合を解く事が出来なくなってしまう…。
………
……
…
もはやこのコロシアムは、夜霧のような濃密な花粉に包まれた妖しい男色者たちの宴の場と化した。
理性を保っている者など、誰一人として存在しない……。
けだもののごとき雄叫びと、狂った笑い。
絶叫と、絶頂を迎えた自己申告の鳴き声。
………
……
…
(これでいい)
尻を貫く相手がいったいどの石像戦士なのか、忘れるほどの乱交のさなか。
美しいまつ毛に縁取られたまぶたをうっとりと閉じたままで自嘲の笑みを浮かべ、孤独なロータス皇子はひとりごちる。
(もうどうなってしまっても、よいではないか)
(わたしはこのまま、けがされ、朽ち果てよう)
皇子はわずか10数年の生涯を振りかえる。
(わたしは、父である王を)
(殺した…)
(……)
『…に作り出された我が新たなる肉体にすぎぬ』
冷ややかな父王の言葉がよぎる。
あれは忘れ得ぬ、15歳を迎えた誕生日の夜。
父からの贈り物である小さな金の冠を、父みずからの手で着けていただいた直後の出来事だった。
『なにをおっしゃるのですお父上、わたくしは、あなたの…』
『おんみは、老いた我が肉体に変わる、新たな肉体として、錬金術師によって作り出されたのだよ、ローサリウス』
『嘘です…うそです、父上……そんな』
青ざめる皇子に、王はさらに告白する。
『アルビオンを存じておろう?』
父王は、城内で最も忌み嫌われる呪術師の名を挙げた。
『あの呪わしい白蛇のような呪術師な、あれは、おんみより以前に作り出され、魔力不足で失敗作となった、おんみの試作品………いや、兄よ』
『ば、馬鹿な…』
『…さあ、栄えあるおんみの誕生日の今宵、その金冠以上に輝かしい、偉大なる王の、脳を《戴冠》しようぞ!!』
『!?!?!?』
『逃げるなローサリウス………おんみは、我が脳を移植するための、新たな器に過ぎ…』
すべていい終える前に、直前まで愛すべき父、尊敬すべき王と信じていたそれは、焼け焦げた肉のかたまりと化していた。
皇子の渾身の、火炎呪によって…。