ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 864
それはさすがに冗談だけど。
難しいうえに双子だからね。産みの苦しみも2倍だ。
…香澄程ではないけれど。
「うちの家族は皆揃って漢字一文字なんだ。それで響きの良い名前でも…」
杏さんをよそに考えてしまう。
そんなこんなしているうちに、車は病院に到着してしまう。
今まで僕が利用していた入口を通過し、一般人とは異なるVIP専用のエントランスに車はゆっくりと停車する。
やっぱり青山家って、僕の今までの生活とはぜんぜん違うセレブなんだよね…
分かっていったこととはいえ、改めて実感してしまう。
「さて、着きましたね」
杏さんが車が止まったのを見計らってドアを開ける。
何もかも未体験の僕は杏さんについて行くので精一杯だ。
入り口から入った先も僕が見慣れた光景とはまったく違う。
その待合所のようなところに…
「あっ、匠さん!杏ちゃん!」
幼い我が子を抱える香澄の姿があった。
「おお香澄!…」
思ったより元気そうでよかった…
「お仕事の方は大丈夫だったんですかぁ?…」
「ああ、和彦さんがその辺のことははからってくれたから問題無いさ…それより香澄、ずっとここで待っていたの?…」
「はいぃ、だって匠さんの顔を見るの…久しぶりなんですもん…」
ニコニコ微笑む姿。
もともと丸顔の香澄だが、少しふっくらしたように見える。
…以前はちょっと痩せすぎにも見えたけど。
髪も背中くらいまで伸びた。
ロングヘアの香澄は初めて見るけど、これはこれで可愛い。
双子の赤ん坊は一人を腕に抱き、もう一人は背中に背負う形。
背中にいる子は気持ちよさそうに眠っている。