ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 863
「杏さんも同行することもあるんだよね?…」
「ええ、巧さんをお見掛けしたのも向こうの空港でしたから…」
ああそんなことを言っていたよね…
あの時はまだ僕は巧とは会ったこともなくて、杏さんの話しを興味深く聞いたんだっけかな…
「巧さんとはその後お会いになるんですか?…」
「あまり会ってはいないよ…ゆっくり酒でも飲み交わしたいところなんだけどさ…」
「彼も多忙ですから、なかなかお暇を見つけることも難しいでしょうね」
「そうだろうね」
僕と彼とじゃ置かれた境遇が違いすぎる。
彼はいずれ会社を継ぐ運命にあるだろう。
それに、ゆっくり話を持つ機会は、スズタとの交渉がうまくいった後にと僕の中で決めているんだ。
「昼食はどうなさいます?社長には何処かで…と言われていますけど…」
「うん僕も言われたよ…でももし杏さんがよかったら、病院に直行して貰ってもいいかな?…」
結局何やかんやで香澄の所には全然行ってないもんな…
せめてもの罪滅ぼしに、こんな時ぐらい早くに行ってあげたいよね…
「もちろん私は構いせんよ…私だってお嬢様に早くお会いしたいですもの…」
「杏さんも香澄には会ってないの?」
「ええ、お嬢様、出産後にちょっと体調を崩されて、精神的にも不安定だとお医者様に言われましてね」
えっ、それも初耳だ…
僕がいろいろと忙しい?間に、香澄も大変だったんだな…
当分、一緒にいてあげないといけないな。
「ところで匠さん、お子様のお名前は決まってますか?」
「あっ…名前……」
お袋から早く決めろとうるさく言われていたんだったな…
でも僕の頭に浮かんでくる女の子の名前って、今まで関係した子ばかりなんだよね;…
「早く決めてさしあげないと可愛そうですは…、今なんて皆『赤ちゃん』って呼んでいるんですもの…」
「ああ、それならいっそのこと“赤”って名前にするかぁあ…」
「もぉう、匠さんたらぁ!」