ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 621
「そんなことして、何か意味があるのかよ?…」
そう言いながら、嫌な考えが頭をもたげてくる…
まさか…青山家の財産を?…
いやいやそんなことがある訳がない…
当時お袋は年端も行かぬ年齢…そんな大胆なことを思いつくなんて…ある訳無いじゃないか…
「いえ、もしも…と思っただけです、そんなことありえないでしょうけど」
香澄は申し訳なさそうに俯いた。
当時の桜木家の人間、僕から見て母方の祖父ちゃん・祖母ちゃんはどう思ったことだろう。
お袋は3人きょうだいの末っ子で唯一の女の子だった。それが高校在学中に妊娠だなんて聞いたら…
「では、美恵子さんが?」
「…それは、どうだろう」
「だって美恵子さんは、お父様である宗次郎さんに反抗していたっていうし…」
「それだけのことに、匠さんのお父様である担任の教師が協力したというのは…どうも考え憎いんじゃないかしら…」
恋ちゃんが声を殺して言った…
親父…?
親父はその当時、大学を卒業したばっかりとはいえ立派な大人…
その後結婚したお袋はまだしも、鈴田家の一人娘である美恵子さんに出産する場所を提供したというのは、単なる生徒のことを心配したからこその、ただそれだけのことだったんだろうか…?
「美恵子さんが宗次郎氏に内緒で身を隠したとは考えられないですよね…」
「当時は高校生ですからね、それこそ別の大人の協力が必要になります」
「その大人…」
香澄は今までに見たことのない強い視線で僕を見つめる。
「私、匠さんのお父様とお母様に、この真実をお伝えして、お話を聞くことにします」
「香澄…」
「愛する旦那様の生い立ちがこんなモヤモヤしたままではいけないんです!」
「よかったら、私も一緒に行ってもいいかしら?…こういうことは第三者がいた方がいいと思うんです…」
「あっ…それはいいけど、ここは恋ちゃんが居なくなってもいいの?…」
いいとは言ったものの、本当はちょっと気が引けた。
もし僕が思っているようなことがあったなら…それはあまり他人には知られたくは無いからだ。