まあ和彦さんお抱えの青山家専属料理人だけに仕事も多かったのだろう。
食堂のスタッフに有能な子がいればその子に任せればいい、今回のようなこともそうだし椿ちゃんだっているんだし。

ちなみに梨奈ちゃん…小野寺梨奈ちゃんというのだけど、弥生さんの一番の信頼を得ている若きシェフ。
小さな身体で大人数の料理を作ってこなしている凄い子だ。

「梨花ちゃんもやっぱり和彦さんが連れて来たんですか…？」
「ええ、ホテルグランドの厨房で下働きしていたそうよ…」

「へぇ〜あれだけの腕を持っていながらに下働きだったんだ…」
「そうね…シェフの世界って、まだまだ女を認めない“男社会”なのよね；」

弥生さんは次の準備で部屋を出て、香澄と椿ちゃんは再びゲーム。

ちょっと暇ができた僕はその梨奈ちゃんに会いに行こうと思った。

食堂をちらりと覗く。
今から夕食の準備だろう、スタッフが慌ただしく動き回っている。

「あら、匠さん、どうしました〜？」
「ああ、茜ちゃんか」
高城茜ちゃん、この子も弥生さんの信頼する厨房スタッフ。
その隣にいるのがサブリーダー的存在、真中梨奈ちゃんだ。

「あっ、、匠サマですね;…」
僕の存在に気づいた梨奈ちゃんは顔を赤らめた…

「いや、“サマ”付けはよしてくれよ；…僕は和彦さんみたいに偉くは無いからね；…」
和彦さんの義理の息子になった以上そう呼ばれのも仕方ないけど、やっぱり“サマ”を付けて呼ばれるのには抵抗があるからね…

「ああ…でも、匠サマはお嬢様の旦那様であるわけですから…」
「気にする必要ないよ、梨奈ちゃん」
茜ちゃんが梨奈ちゃんの肩をポンポンと叩く。
仲が良さそうな2人だ。

「明日、弥生さんとちょっと外出するから、梨奈ちゃんに仕事を任せることになって…ね」
「いえ、お気になさらずに、ごゆっくりどうぞですよ」