ほんの少しの勇気で人生って変わると思う 2
「あ、あのさ…もう1回、言ってくれる?」
「はい。おにーさんに、私の婚約者になって欲しいんです」
「…マジで?」
「マジですよ?」
そういう彼女は満面の笑顔だった。
「ちょっ、えっ、あの、そんな今会ったばかりの僕がそんなことなんdくぁwせdrftgyふじこlp」
「落ち着いてください!」
…この状況で落ち着けますか。
君が言わんでください。
もう一度、落ち着いて考える。
彼女は笑顔ではあるが、『婚約者』という言葉…切実さを感じる。
さらにどう見てもお嬢様な財力…この二つから、僕はある結論を見出した。
彼女は、ご両親と喧嘩して、家出したのだと。
おそらく、自分の意にそぐわない結婚相手を両親に無理矢理決められたとか。
…それにしても、高校生の時点で結婚相手を決めるのもどうなのかな。
いつしか、彼女を値踏みするような視線を送ってしまったかもしれない。
でも、この娘、かなり育ちはよさそうだ。
「君、家出してきたんだよね?」
「…バレましたか」
「実家も関東地方ではなさそうだね」
「…名古屋です」
自分の読みが鋭すぎて怖くなる。
…というか、東京まで家出って何しに来たんだこの娘は。
「…なんで僕が選ばれたのでしょう」
「おにーさん、私のタイプのイケメンさんだったので」
…イケメン、ねぇ。
そう呼ばれたのはいつの頃だっけなぁ。
…ん。この娘、実家が名古屋って言ったよな。
「…僕の実家も名古屋だ」
「ホントですか!?」
「うん…まあね。でも、大学卒業して最初の会社に就職するときに家を出てから…もう5年は帰ってないな」
…彼女を助けるついでに実家に帰るか?
でも、うちの両親はなぁ…
…まあでも、名古屋に帰っても僕の実家に帰らずにいれば何とでもなるのか。
それだと、彼女のご両親とご対面しないといけなくなるのだろうか?
…いや、それはマジ勘弁。
こんなお嬢様と社会の底辺みたいな僕とがつりあうはずなんて絶対にない!正直ありえん!
「あの、おにーさん…」
彼女が僕の服の袖をつかんできた。
瞳をうるうるとさせて、上目遣いでこちらを見つめる。
…あの、そんな表情で見ないでください。
「一生のお願いです」
「うん」
「私を、助けてください」
…そういえば、生まれてこのかた、誰かに頼りにされるなんてこと、なかったと思う。
しかも、こんな可愛い娘に。
「…僕でいいの?こんなに頼りなくて、職も失った人間だけど」
「はい」
「なら、できる限り、君の力になろうと思う」
「ありがとうございます!!」
彼女は、最高の笑顔を見せて、僕に深々とお辞儀をした。
「あ、そーいえばおにーさんの名前聞いてなかった」
「僕も君の名前知らないんだけど」
お互い自己紹介もしないでここまで話が進んでたとかちょっと怖いね。
「僕は柏原匠。よろしくね」
「青山香澄といいます。よろしくお願いしますー」
また深々とお辞儀する。
さすがお嬢様って感じだね。
「とりあえず、今からどうする?」
「デートしましょ、デート!東京まで来たんで、いろいろ回ってみたいですー」
「…お金があるかな」
「だーかーらー、お金はいくらでもあるって言ったじゃないですかっ!」