性先進国 14
「それは…ちょっとさみしいね…」
そうは言ったものの、一郎は、自らが中学生だったころを考えると、この国のような状況でなくても、実家から離れて自由になれる機会があったなら、そうしたかったかもしれない、と思った。
「…会社が無くなった後の就職先、一郎のところの会社もいいかも…」
「ああ、きっと、藤原社長も歓迎すると思うよ」
リズは、目を閉じて、仰向けになって、脚の付け根の部分がよく見えるようにした。
「ねぇ、一郎…いれてぇ…」
一郎は、自らのモノを持って、無言で入れていった。
「アッ、アッ、アッ…いちろぉぉ…」
「リズ、リズ…」
一郎は、その晩、この時ともう一回リズの中に出して、二人は眠りについた。
翌朝、一郎が先に目を覚ました。
服を着ないまま、テレビをつけた。朝はニュースを見る習慣なのだ。
肖像画で見慣れたシタルネン大統領がテレビに出ていた。
「テロは許しがたい。しかし、可能な限り多くの国民の願いをかなえるのが、大統領としての役割である。私は、東部州での広範な自治ができるように、選挙の提案することを決意した…」
「おはよう…」
同じく服を着ていないリズが目を覚ました。
「リズ、東部州で自治を認める、って大統領が言っているのだけど、これって、テロに屈してしまった、ってことなのか?!」
リズは目をこすりながら言った。
「シタルネンは、頭がいい。これまで20年間、巧妙に反対派を退けてきたの…」
リズは、テレビの字幕に出ている大統領の提案を読んで言った。
「もし、東部州で選挙やっても、ヤランネン派が州知事とか、州議会過半数握れるはずないし…まあ、ヤランネンがどう出るか…ねえ…シャワー使っていい?」
一郎が返事をしないうちにリズはシャワーに入っていった。
その後、一郎もシャワーを浴びて、二人で簡単な朝食をとって、お互いの職場に向かった。
「おお、佐藤!怪我は無いのか?もう少し休んでいても大丈夫なのに」
藤原社長は、一郎を見るなり、そう言った。
「ご心配おかけしました。大丈夫です。今日から復帰します」
一郎は、そう言って、席に着こうとしたら、藤原社長から次の一言が飛んできた。
「佐藤、君に、室長をやってもらう」
「室長ですか?この4人しかいない本社に、室なんてあったのですか?」
「これから作るんだよ」
一郎はどきりとした。結果的に今があるとはいえ、実質的な左遷と思ってもいいセクロス赴任を言い渡さてからまだ一年も経っていないのだ。正体が分からない異動話には、身構える。
「君を東部方面観光推進室長を命ずる」
「東部方面ですか!」
なぜか、一郎の頭には真っ先にマスカークの顔が浮かんだ。
「知っての通り、我々のツアーは隣国とセットのものが多い」
そもそも、セクロスそのものが日本では知名度が低く、ネット上の半信半疑の情報しかない。
ネットである程度事情を知った人同志だと、仮にそういうことを言ったら“ああ、風俗店に行くのね”に近いような思われ方をする。
そのため「セクロスに行く」という旅行者は多くはない。
それに対応するため、フジワラ観光では、セクロスの首都に案内するツアー以外に、隣国をメインにしてついでにセクロスの端の方に立ち寄るツアーもいくつか企画して顧客を呼び込んでいたのだ。
東部に隣接した国は、ちょっとミステリアスな感じのあるR国で、観光客も多い。そこから日帰りで、セクロス東部に寄っていく人は多いのだ。
「はい、存じております」
「ニュースで聞いているかもしれないが、東部州で、ある程度の制度の変更があるかもしれない。そのときに、従来のツアーで大丈夫なのか、あるいは変更しなくてはならないのか、を調査して、今後の状況にあったツアーを企画してもらいたい」
「あの、東部に引っ越す、ということですか?」
「それは、必要に応じて、ということになる」
そういって、藤原社長は席についてPCに向かい始めた。
「東部…」
一郎は、メールチェックした後、PCにセクロスの地図を表示させた。
「中心都市…イテスデン」
そこは、国境に接し、R国メインでセクロス立ち寄りツアーに使う都市だった。
一郎は行ったことはなかったが、特急列車か高速バスで日帰りできる距離のようだった。
「一郎、おかえりなさい」
事務員の一人が出勤してきた。
「無事でよかったです」
「ありがとう」
一郎は再びPCの画面上の地図を追った。
「なあ、アンナ」
一郎は、出勤したばかりの事務員に声をかけた。
「ヤランネンの本拠地の郡、って何て名前だか知ってる?」
何か起こるなら、そこが中心になるだろう、と一郎は思った。
彼女は直ちに答えた。
「トゥルクィ郡です」
その場所はすぐに見つかった。
中心都市イテスデンのすぐ北だった。