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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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愛の形-2



「……薬……ないの?」



とりあえず少しでも早く不安を取り除いてあげたかった。



ヤナは全身を支配する激しい苦痛に堪えながら、ギュッと目を閉じて呻くように言った。



「わりぃ……ベッドの横の引き出しに……あるから……取ってきて」



「――わ…わかった」



慌ててはいけないと思いながら、ひどく気が急いているのが自分でもわかる。


私が発作を起こした時には、ヤナがこんなふうに焦っていたのだろうか。



初めて足を踏み入れるヤナの部屋。



そこは『居住空間』というより小綺麗な『実験室』のようだった。


家具もファブリックも全てモノトーンで統一された無機質な空間。


そこには、不気味なくらい生活感がまるでなかった。



私が歩きまわるだけでその潔癖な空気を汚してしまいそうで、知らず知らずのうちに息をひそめて忍び足になってしまう。



恐る恐る寝室に入り、ベッドサイドの小さなテーブルの引き出しを開ける。


そこにはミネラルウォーターと、数種類の病院から処方されたと思われる抗不安薬が無造作に入っていた。



わかっていて開けたはずなのに、その薬だらけの異様な光景にドキリとしてしまう。



枕元に常に薬と水を置いておかなければならないという事実がヤナの症状の重さを想像させる。



何もかも整然とした部屋の中で、唯一雑然としている小さな引き出し。



この四角い箱の中にヤナの苦悩がいっぱい詰まっているような気がして、胸が苦しくなった。



薬は数種類あったが、よくわからない薬を今のヤナに渡すのはなんとなく怖いような気がした。


私はその中から自分が使ったことのある錠剤とミネラルウォーターを持ち出して玄関に駆け戻ると、それらをすぐに飲める状態にしてヤナに手渡した。


「……サンキュ」



効き目云々よりも、薬を飲んだという事実に安心したのか、ヤナの顔が少し穏やかさを取り戻した。



私はヤナの横に並んで腰を下ろした。今はとにかくヤナの側に寄り添っていてあげたいと思う。







「……あーあ……いいとこだったのにね」



ヤナが、苦笑しながら聞き覚えのある台詞を言った。



文芸部の部室で初めて私を抱き寄せた時も、確かヤナはそう言ったのだ。


あの頃は、ヤナを本当に最低の男だと思っていた。



そのヤナが、私にとってこんなに近い存在になるなんて、なんだか不思議な気がする。







「ホント…残念だったね……」



ヤナの調子に合わせて冗談めかしく言ったら、急に鼻がツンとなって新しい涙が私の頬を伝った。




なんて優しくて、
なんて繊細なヤナ。



気がつけば私はこのヤナの優しさにいつも甘えてきた。




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