封印-1
私はカラス―――。
華やかなフラミンゴの群れに迷い込んだ
真っ黒い異端児
――――女子というのはどうしてあんなに群れを作りたがるのだろう。
同じアイドルが好き。
同じブランドが好き。
同じ歌が好き。
同じ先輩が好き。
自分に似た人を探すのはそんなに楽しいことだろうか。
フラミンゴたちはたくさんの共通項でお互いの存在を認め合うけれど、そのどれにもあてはまらない私はどうすればいいのだろう。
アイドルも、ブランドも、歌も、先輩も……『フツー』の女子高生が興味をもっていることに対して私は興味が薄い。
興味のない相手の興味のない話に、延々と不毛な相槌を打つよりも、一人で大好きな本を静かに読んでいる時が一番幸せ。
ただそれだけの事なのに……私はひどく『変わり者』だと思われているに違いないのだ。
友達がいないわけでもないし、いじめられているわけでもないけれど、教室にいると息が詰まりそうになる。
そんな私が
唯一深呼吸できる場所。
それは文芸部の部室だ。
放課後、ひっそりと静まりかえったあの小さな箱の中に入ると、私は学校の中で唯一の居場所を見つけたような気がしてホッとする。
私だけの秘密の空気穴。
今日も私は自分を取り戻すために静かにその扉を開く。
―――しかし今日は、いつもと様子が違っていた。
ザワザワした人の気配。
不審に思いながらノブを回すと、いつもならば誰もいないはずのその部屋の中から、突然けたたましい女子の笑い声が聞こえてきた。
「うっそー!じゃあ夏休みに旅行つれてってくださいよー!」
「えーっ!あたしもあたしもー!」
『……誰?』
聞き覚えのない複数の女子の声。
そして香水がいりまじった強烈な匂い。
『……な……何?』
恐る恐る扉を開けた私は、目の前の光景に唖然としてしまった。
6畳ぐらいしかないそのスペースはものすごい人口密度になり、プチハーレムと化していた。
香水と化粧の匂いをぷんぷんさせた5人の綺麗なフラミンゴが一斉にこちらを向く。名札の色を見ると全員2年の子だった。
敵意とも軽蔑ともとれる冷めた視線が私につきささる。
「おっ!相原!待ってたんやで!」
フラミンゴの群れの真ん中で手を挙げたのは私のクラスメイトの山門彰吾。
文芸部に無関係のヤマトがなんでここに?
なんでうちの部室でこんな好き勝手やってるわけ?
フラミンゴに囲まれてヘラヘラ笑っているヤマトの顔を見た途端、私は自分でも抑え切れないほど腹の底からイラッときた。
私の顔色の変化を素早く察知したのか、ヤマトがサッと立ち上がった。
「はいはい!もう自分らええやろ?俺はこの部長さんと話あるから、今日はもう帰りや」
ヤマトは大袈裟な手振りでフラミンゴたちをドアのほうへ追い立てる。
「……ヤマトせんぱぁい。またおしゃべりしに来ていいですかぁ?」
「おぅまた今度な。気ぃつけて帰りや」
「はぁ〜い」
フラミンゴは不満気な顔をしながらも私の脇をすりぬけて一羽二羽と帰っていった。