真実-5
ガキのころから何度も転校を繰り返してきた俺は、他人と深い人間関係を築くのが怖かったんかもしれん。
深く繋がれば、別れる時それだけ深く自分が傷ついてしまいそうやから―――。
「浅く広く、みんなに愛されるヤマト」
それは、俺自身が生きていくために造りだした虚ろな張りぼての偶像や―――。
首に絡み付いた雪乃の腕が俺の顔をさらにぐっと引き寄せる。
俺達はバランスを崩してもつれるようにベッドに倒れこんだ。
雪乃―――。
お前は俺に似ている。
お前もいつもたくさんの人間に囲まれて、みんなにちやほやされながら、人一倍孤独を感じてるんかもわからんな。
お前の孤独をわかってやれるのは俺だけかもしれん。
雪乃……お前ひょっとして、「本気で」俺のことが好きやったんか………。
そう思ったら、急に胸が苦しくなった。
でも……俺が好きなのは雪乃やないねん………。
「雪乃……俺……お前とはもう出来へん……」
ベッドに倒れこんだ体勢で俺の首根っこをつかまえたまま、雪乃は俺を真っ直ぐ睨みつけている。
「……それどういう意味……」
「俺……相原のこと本気やし……あいつのこと……傷つけたくないねん」
俺がそう言って雪乃の腕をほどこうとした時だった。
背後のドアが突然開いた。
…………?!
振り返るとそこには、制服姿の相原が立っていた。
「……相原……お前……なんでここに……?」
下着姿でベッドに横たわる雪乃。そこに覆いかぶさる俺。
この状況で、何をどう説明したら「俺の無実」を証明できるのだろう。
相原の顔がみるみる青ざめていくのがわかった。
「相原……ちゃうねん!」
「……や……嫌っ!……」
俺の言葉を聞こうともせずに、相原は部屋を飛び出す。
「待てや……!」
すぐに追い掛けようとするが、雪乃の腕が絡み付いて機敏な行動がとれない。
「雪乃っ……離せやっ!」
「知りたくないの?あの子のヒミツ」
「うっさい!もうどうでもええわ!」
俺はイライラして雪乃の腕を力一杯ふりほどいた。
すぐに相原を追い掛けて、とにかく誤解を解きたい。
あいつをもう泣かすなと
ヤナに言われたばかりやのに―――。
焦る俺とは対照的に、雪乃は落ち着いた調子で笑いながらこう言った。
「聞いたほうがいいと思うけど?…………相原博美と、実の叔父さんの『不適切な関係』のハナシ………」
――――何?
今、何て言うた?
俺の身体は呪いにかかったように動けなくなった。
「………嘘…やろ……?」
それだけ言うのが精一杯だった。
背中を嫌な汗がつうっと流れおちる。
不意に激しい雷が鳴って、大粒の雨が屋根を叩き始めた。
心臓がギシギシと嫌な音をたて、なんともいえない不快な感覚が身体の中にじわりとひろがっていく。
「……それ…どういう…ことや……」
俺は雪乃のほうへ向き直った―――。
END