疑心-5
「……ごめ……ちょっと……体調悪いから……」
「ヤマトとなんかあった?」
まごつく言い訳をピシャリとさえぎられ、ドキリとして上目使いで見上げると、ヤナはいつものように落ち着いた表情で私を見下ろしていた。
――そうだった。
ヤナには何を隠しても無駄なんだっけ。
「今……ヤマトの顔……見たくないの……」
目の前のヤナに甘えてしまいたいような衝動が込み上げてくる。
私がその胸に飛び込んだら、ヤナは私を受け止めてくれるの?
泣くまいと思っていたのに、大粒の涙が頬を伝って床に落ちた。
ヤナの大きな手の平が、子供をあやすように私の頭をなでた。
ヤナ――――。
私に優しくしないで。
今あなたの優しさに触れたら、私の心は簡単に崩れ落ちてしまう。
「……ごめん。今日……私……帰る……」
私はヤナの手を振り払って部室を出た。
「相原」
追いかけてくるヤナの声に一瞬立ち止まる。
「何があったのか知らないけど………目の前のアイツを信じてやれよ」
また涙が溢れた。
『目の前のヤマト』って何?
私は何を信じればいいの?
ヤナ―――
助けてよ―――。
逃げるように私は走り出した。
自分の気持ちがどこに向かっているのか、私にはもうわからなくなっていた。
END