疑心-3
グラウンドを見渡せる小さな窓からは、どんよりとした薄雲が見えた。
どこか遠くの空でカラスが鳴いている。
放課後、ここに来るのが大好きだった。
ここだけが学校で唯一私の呼吸できる場所。そう思っていた。
でも今は不思議とそう思わない。
学校は相変わらず息苦しい場所だけど、この部室が空気穴だという感覚は以前ほど強くなくなっているような気がする。
こんなに薄暗い陰気な部屋が、なんで私はあんなに好きだったんだろう。
ヤマトと付き合うようになって私は変わった。
今はもう、付き合う前の自分がどんなだったか、何故かうまく思い出せない。
一体、本当の私はどっちなんだろう。
ヤマトと付き合って、私は本来の自分を手に入れたのだろうか?それとも失ったのだろうか?
その時、くぐもったような振動音が再び聞こえて、さっき無造作に突っ込まれたヤマトのケータイが、カバンの隙間から床に滑り落ちた。
――ゴトン――という、意外に重量感のある音に思わずドキッとしてしまう。
ヤマトのケータイは生きているように床を這いながら数回振動したあと、力つきた魚みたいに静かになった。
普通の高校生の何倍もの頻度で使い込まれているであろうそのケータイは、色もひどく剥げてボロボロになっている。
この小さな「道具」が、ヤマトの生活の中では、かなり重要な役割を担っているのだろう。
拾いあげてそれを机の上に置こうとした時、
―――ふわり―――とエタニティの香りがした。