花火-3
少しずつ遠ざかる花火の音。
悔しくて、悲しくて、涙がポロポロ溢れ出していた。
浮かれちゃって馬鹿みたい。
花火大会なんて、やっぱり来るんじゃなかった。
カラスには、あんな華やかな場所は似合わないのに。
ヤマトと一緒なら、どんな場所でも自由に泳いでいけるような気がしていた。
だけど、今日みたいに一瞬でもヤマトに手を離されたら、私はあっという間に溺れてしまう。
夢中で歩き続けて、気がつけば私は自分の家のあるマンションの前にたどり着いていた。
「……痛……」
履きなれない下駄で長時間歩いたせいで、鼻緒のあたっていたところが赤く擦りむけている。
「……馬鹿みたい……」
口に出したらますます情けなくなった。
「何が馬鹿みたいなの?」
突然後ろから声をかけられて振り向くと、コンビニの袋をぶら下げたヤナが立っていた。
「ヤナ……」
一番会いたくない相手にあってしまったような、それでいてなんとなくホッとしたような複雑な心境。
「花火、行ったんじゃなかったの?」
「………う、うん……ヤナは行かないの?」
「うーん。俺、人の多いとこキライだから」
ヤナらしいな……と思う。少し気持ちが軽くなった。
花火ぐらい行かなくてもたいしたことじゃないよね……。
「……相原、ヤマトと一緒だったんだろ?」
「……ああ……うん。途中で陸上部のOBの人達に会っちゃって。……私お邪魔っぽかったから帰ってきたの」
口に出したら何でもないことのように思えた。
「そっか………」
ヤナは少し考え込むような顔をしたかと思うと、いきなり私の手を取ってマンションのエントランスのほうへ早足で歩き出した。
「いいとこ連れてってやるよ」
「……いいとこ?」
ヤナは当たり前のようにエレベーターホールを素通りして階段の方へ向かう。
私がエレベーターが苦手だということも、きっとヤナは知っているのだろう。
不思議と嫌な気持ちがしない。
ヤナが私のことを全て知っていても、もう私はあまり驚かなくなっていた。むしろそれが当たり前のように感じられる。
ヤナは私で、私はヤナ――。
よく考えれば不自然なことなのに、その感覚に私は何故か安心感さえ抱くようになっていた。
ぐいぐいと私の手を引いて階段を昇るヤナ。
ヤナに身体を引き上げられるようにして私もその後ろを昇っていく。
階段を昇りつめてたどりついたのは「関係者以外立入禁止」のステッカーが張ってある、鉄製の扉だった。
「……ここって……」
知らず知らずのうちに小声になってしまう。いつも使っている階段だけれど、一番上まであがってきたことは今までなかった。
「最近気付いたんだけど、ここ屋上のロック壊れてんだよ」
振り返って悪戯っぽく笑ったヤナがドキッとするほど眩しく見えた。