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異端児カラス
【学園物 官能小説】

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花火-2



すごくキレイなひと―――
高校生……?
ではなさそう……



「……雪乃」



ヤマトは平静を装っていたが、表情にかすかな狼狽が浮かんでいた。
普段人前でめったに動揺を見せないヤマトにしては珍しい。


それはごく僅かな変化だったけれど私は見逃さなかった。


明らかに年上らしいひとをヤマトが呼び捨てにしたこと、そしてそのひとが、ヤマトを名前で呼んだことがひどくひっかかる。


「え?何?誰!?」


「雪乃」と呼ばれた女性の背後から数人の男性の集団が現れた。


「あっ!ヤマトじゃん!」


「――あ!先輩?!うわ。みんなどうしはったんすか?」


目を見開いて笑顔で立ち上がるヤマト。私もわけがわからないまま慌てて立ち上がった。



「祭だから今日だけみんな帰ってきてんだよ」

「卒業以来だな〜!お前生徒会長になったらしいけど陸上部ちゃんとやってんのか?」

「やってますよ!めちゃめちゃ頑張ってますって!」


みんな口々にヤマトに声をかけて楽しそうに笑い合っている。
どうやら陸上部のOBの集まりらしい。

目の前でのやりとりを見ているだけでも、ヤマトが可愛がられていたのがよくわかる。

ヤマト自身も久しぶりに先輩たちに会えて急にテンションがあがったようだった。


私はなんとなく疎外感を感じながら、ヤマトがみんなに紹介してくれるのを待っていた。


苦手だなぁ……こういう感じ。


どんな顔をしたらいいかわからずもじもじしていると、「雪乃」と呼ばれた女性が、優雅な足どりで私のそばに歩み寄り、花のような優しい微笑みを浮かべながらこう言った。


「……で?こちらの可愛いらしい女の子は?」


ふわり……とエタニティの香りがした。


香水の知識なんて私には全然ないけれど、この香りだけはわかる。
私が大人の女性になった時、つけたいと、ずっと前から私がひそかに憧れていた香り……。


悔しいけれど、雪乃にはその香りがとてもよく似合っていた。


「あなた、新しいマネージャーさん?……それとも彰吾のクラスメイトさんかな?」


――マネージャー?
――クラスメイト?


花火大会にヤマトと二人きりで来ている私に向かって「彼女?」と絶対に聞かないところに、私は雪乃の静かな敵意を感じとった。


それは男たちには決して気付かれないけれど、私だけには伝わるように、あざとく計算されたたちの悪い悪意だ。


「ああ。えーと……」


ヤマトは雪乃の手前だからか、私のことをどう紹介すべきか躊躇している。


苦い物を噛んでしまったような不快感が私の中に広がった。


こんなキレイなひとを目の前にして、私みたいな女を彼女だなんて言えないよね……。




「私、ヤマトのクラスメイトの相原です。――ヤマトとはさっき偶然会って」


口が勝手にベラベラと動く。
私は少し自虐的になっていた。


一秒でも早くこの場を立ち去りたい。私の全身の細胞が退却命令を出している。


「じゃあね。ヤマト。私友達待ってるから」


やっとそれだけ言って、私は足早にその場を離れた。



「相原っ!」


慌てて追い掛けてくるヤマト。


「ちょ……待てや。お前何言うてんねん」


私の腕を強くつかんで引き止めようとする。雪乃たちが少し離れた場所からこちらをじっと見ていた。


「久しぶりに会ったんでしょ。滅多に会えない人たちなんだから、一緒に行ってくれば?」


意地をはって、いつも以上に明るく振る舞ってしまう自分に腹が立つ。


「……相原……?」


ヤマトは私の真意がわからずに困惑している。


「私、こういう場所慣れないから疲れちゃって……やっぱり帰るね」


我ながら可愛いげのないセリフが次々と口をついて出る。


浮わついていた気分は、冷や水を浴びせ掛けられたように小さく萎んでしまっていた。


「ゴメンね。誘ってもらったのに」


そう言いながらヤマトの腕をやんわりと振りほどく。
手が離れた瞬間、ヤマトはちょっと傷ついた顔をした。



………私の馬鹿。意地っ張り!



私は、もうまともにヤマトの顔を見ることすら出来なくなって、急ぎ足でその場を離れた。




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