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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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続編/律子その後-6

 間近で見る律子は、化粧をしていないのにしっとりと潤っていて、律子の耳は光りを通して美しいピンクに染まり、かすかな産毛が白く光っていた。細く長い首は胸への曲線を連想させた。思わず、律子に聞かれてしまったのではないかと思ったほど、生唾を飲む音をさせてしまった自分を恥じた。
 <ああ……この子が欲しい> そう思いながら、こんな可愛くて綺麗な律子には、きっと男がいるに違いない。この肌の潤いは男のホルモンのせいだ……。
 絵美は、店にいても、家に帰っても、律子の可愛さに悩まされていた。なまじ近くで一緒に仕事をしているために、気安く律子に触れることはできる。しかし、それ以上は進まない。

「お姉ちゃんはね、自分のことを綺麗だなんて思っていないの。だから、服だって無頓着だし、私、今度のファッションショーへ一緒に行ってもらうのだって、私が関係しているブティックのためだからって、無理矢理誘ってやっとOKしてもらったのよ」
「お姉ちゃんはすごく出不精なの。人にジロジロ見られるのが苦手なんですって。綺麗なんだもの仕方がないのに……。むしろ私はお姉ちゃんを連れて歩いて、みんなにお姉ちゃんを自慢したいのよ。」
 <お姉ちゃん>の話をしているときの律子は目を輝かせていた。絵美は、その人の想像がつかないまま、ただファッションショーに外出するために、お金をかけて衣装を作ろうとしている律子が理解できなかった。

 出来上がった洋服をモデルに着せて律子の点検を待った。律子は、一面不安そうな目をしていたが、5人揃ったモデルの衣装を見てホッとしたように頬を上気させた。絵美はその律子の表情を見て、ますます律子の魅力に取り憑かれていく気持ちを抑えられなかった。
「ああ……翔子お姉ちゃんがこの服を着るところ、早く見たいわ。お姉ちゃんに怒られるかも知れないけど、食べてしまいたいほど好きなお姉ちゃんにも知ってもらいたいの。お姉ちゃんは世界一美しい人だってこと……あ……絵美さん、ほんと、いろいろ無理を言ってすむませんでした。もう少しお願いね。これよ。この一着に合わせて、バッグと靴でしょ、アクセサリーも、絵美さんのセンスで整えてくださる? お願いね。私、絵美さんのセンスにはいつも感動するくらい信用していますから」
 <律子も私と同じビアン……?>
 絵美は、律子から想像外の言葉を聞いた気がした。その信じられない女性が、実の姉ではない、翔子という律子最愛の女性であること。それは、絵美にとっては喜びと哀しみで両頬を打擲されてような衝撃だった。

 絵美は、律子に引っ張られるように入ってきた<翔子お姉ちゃん>という女性を見て息を飲んだ。
 翔子が纏っている衣服は、律子の言う通り、美しく自分を飾りたいといった意識はなく、ただ着ているに過ぎないように見えた。
 高級な素材、エレガントなデザインであることは分かるが、古びた流行遅れだった。しかし、それは絵美だから言えることで、普通の人が見れば、かなりセレブのお嬢様という装いと見えないことはなかった。そして、その全体から醸し出す翔子の美しさは、まるで、一昔前のファッション雑誌から抜け出てきたようだった。生きて動いているのが不思議だった。化粧ひとつしていないようだった。美しいモデルたちを見慣れている絵美でも、化粧したモデルたちが惨めにみえるほどだった。ただ美しいというのではない。人間くささのない精巧に作られたマネキンのようだ、と思った。
 律子に紹介されて、<北白川翔子です。律子がお世話になっているそうね>と言った甘い声を聞いたときは、全身に鳥肌がたってしまった。律子が<お姉ちゃん、こっち、こっち>とはしゃいでいる声すら、物語の中に入ってしまったように上の空になっていた。

 <律子は、このような女性に愛されているの?> 
 絵美は、自分の失恋を強く意識した。とはいえ、この女性が律子を抱いて何事かをしている様子が想像できなかった。後々一緒に仕事をするようになって、ごく普通の美しい女性だとは分かったものの、初めて会った驚嘆は、律子を見る目をも変えてしまった。
 翔子はどことなく物思いに沈んでいるような印象があり、歩く姿も、ふわふわと空中を泳いでいるように見えた。面と向かって話している絵美を、強い視線ではなく、絵美の後ろ側に抜けていく視線だった。まるで付け睫毛をしているような黒々とした目がそう思わせたのだろう。
 モデルたちが、翔子のための衣装をデモンストレーションしている間も、自分に関係のないことが行われているように、心ここにあらずといった様子で、静かすぎる佇まいで椅子に掛け、組んだ足の白く長い曲線はマネキンそのものだった。そのままの姿勢でモデルたちを眺めているこの女性は、一枚の絵画を見ているようだった。
 律子の話を聞きながら、<そんな女性がいるわけないわ>と思ったが、現にここにいる。目の前の椅子に掛け、モデルたちのデモンストレーションを見ながら、わずかに笑みを浮かべている人のなんという美しさ……。
 それから後は夢心地だった。かといって絵美は、翔子に魅入られたわけではなかった。同じ女性として、翔子の美しさには羨望すら湧かなかった。そういう人間くささを受け付けない、違う世界にいる女性に見えたのだ。
 絵美は、翔子を眺めてはしゃいでいる子供のような律子が好きだったが、彼女の心の全てはこの翔子に絡め取られているのかと思うと、胸が締めつけられるような寂しさを覚えていた。


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