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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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続編/律子その後-5

2、絵美の嘆き

 小郡絵美は、律子が大学を卒業して就職したアパレル会社のアンテナショップ・ブティックで、ひとり店長をしていた。律子が親会社の新人研修で配属されてきたとき、絵美はひと目で律子の可愛さに下半身が疼いてしまったのである。
 絵美がこのブティックの店長に抜擢されたのは、親会社の社長の引きであった。それを知りながら言い寄ってくる社員の男性も多かった。
 背が高く、小さな顔はバレリーナのようなひっつめ髪のせいで引き締まり、少し男勝りのする表情は、いかにもキャリアウーマン的な冷たい印象ではあったが、きびきびとした腰の動きから、それが却ってその奥にある女性の秘部を想像させる色気となっていた。
 しかし絵美は、自分の性癖に劣等感を持っていた。
 贔屓にしてくれた社長も、絵美を性的対象に考えるのは当然であった。しかし絵美は、はっきりと自分の性癖、つまり、女性しか愛せないビアンであることを告げると、潔くあきらめ、この業界では却ってそれはプラスに働くかも知れないと考えたのであろう。当初の辞令通りブティック店長の位置に着かせた。
 絵美の美しさは、言い寄る男性の数で証明されていたが、自分でも意識はしていた。化粧ひとつにしても、女性らしさより、むしろ、中性的な美しさを強調していたと言える。

 そんな絵美のブティックに律子が研修生として配属されてから、毎日のように律子と接するようになると、清楚な女性らしさの中に、えも言われない色気が漂っているのを見逃さなかった絵美だが、律子の態度には、自分の想いを伝える隙がなく、悶々とした毎日になっていた。
 向かい合ってレクチャーしたり、制服を作るために、律子のバストやヒップのサイズを測りながら、必要以上に接触し、髪や、首筋から立ちのぼってくる匂いを嗅いでいる自分が哀れだった。
 制服が出来上がってきて、それを試着した律子は、
「絵美さんと二人でこのブティックにいると、私も、絵美さんのように綺麗に見えるかしら」とはしゃいだ。
 絵美は、そんな律子を見ながら、下半身が異常に疼くのを切ない思いで感じているより他なかった。そして、律子がその制服をロッカーに直して帰宅すると、律子の制服を嗅ぎながら店のトイレで自分を慰めてしまい、そんな空しい快感を味わっている自分に涙した。

 律子が研修にも慣れ、ブティックの概要が分かってきた頃、<私的な希望だけどブティックの売り上げにはなるだろうから>と相談を受けた。
 お姉ちゃんの洋服を作りたいと言う。
 <お姉ちゃん……?>
 それが実の姉なのか、絵美が悩んでいる同性愛としての<姉>なのかが分からなかった。
 本人には内緒で作るのだという<お姉ちゃん>の身長、体型、美的要素、顔かたち……などを聞いていたが、絵美の頭の中に、その<お姉ちゃん>の映像がどうしても浮かび上がってこなかった。
 身長174cm、バスト75cm、ウエスト52cm、足の長さ85cm・・・・・
 色白、痩身、絵に描いたような美しさ・・・・・

 こんな人いるわけがない。ファッションモデルの中には、股下が身長の60%を超える人がいる、という噂は聞いたことがあるが、芸能人やモデルを探したって、これほどの人はいない。バストが少し小さめなだけで、股下が50%近い人が、この律子のお姉ちゃんであるわけがない、と絵美は思った。
 絵美も170近い長身だが、股下は45%と平均であった。それでも絵美を見る店の客は、<このブティックのモデルかと思った>と常に言われるほど自分の美しさに自信を持っていたのに。
 しかし律子は、ごく当たり前のように真剣だった。是非、175cmくらいのできるだけ綺麗なモデルさんを5・6人は揃えて欲しいという。その上、数十万もするデザイナーの服を、デザインを変えて5着以上、<お姉ちゃん>のサイズに合わせて仕上げるという。
 <いくらかかるか分からないですよ>と言ったが、お金のことは考えないで、と律子は言った。
 絵美と律子は具体的にデザイナーから絞りはじめ、そのデザイナーのエスキースを律子の目で検討し始めた。
 絵美は気が気ではなかった。律子の給料で支払えるような額ではない。仮にその<お姉ちゃん>がお金持ちだったとしても、律子の一存で、本人での仮縫いもせずに、黙って作ってしまって良いのだろうか……。

 律子がモデルのポートフォリオのサイズ表を見ながら、顔かたち、色白、首の長さ、肩幅と顔の比率……などを細かくチェックする。<お姉ちゃん>のイメージに近いモデルを吟味しているのだろう。
 律子が希望するモデルはなかなか見つからなかったが、ようやく何人かの候補をあげ、絵美がモデルクラブを当たる。ふと絵美は、律子は自分の理想を追いかけているのではないかと思った。それにしては、自分の理想のためにこれほどのお金をかける物好きとも思えず、そんな女性がいるとは信じられないと呟きながら、なんとか律子の要望に応えることができた。
 候補にあげたモデルが5人ブティックに喚ばれた。律子は真剣にモデルのサイズを測り、その内のひとりが仮縫いのモデルとして選ばれた。
 絵美は、何種類かのデザインを、日頃見せない真剣な顔でいじっている律子の香しい息を胸躍らせて嗅いでいた。


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