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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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序 章 翔子の書き添え-1

鴻作おじさま、そして律子へ
 この私の告白を、お二人に理解して欲しいと思って綴ったわけではないのです。ただ、いつも私を支えてくださったおじさまと、大好きだった律子に、今日まで生きてきた私の日々をありのままにお話しておきたかったのです。

 ウチのモデルたちが出演するのをチェックする必要があって、会社にテレビを置きましたね。私はこの年になって、はじめてマスコミの世界を頻繁に観るようになったのです。そして、マスメディアの世界によって、私がいかに世間知らずのままこの年まで生きてきたかを思い知らされました。
 私にこと寄せて申しますと、かつては男性の特殊世界と思われていたホモセクシャルが、いかにも堂々と市民権を得たかのような露出が目立ちます。でも、彼らにはどこかおかし味があるからでしょうか。あるいは、視聴率が良いからという単純な番組作りかもしれません。<業界人>と言われる人たちにはその種の人が多いのではないかと疑いたくなります。
 その一方で、女性の世界は解放されないままなのです。どれだけ理屈を重ねても、日本では、アメリカやフランスのように決して公にはできない世界だということが分かりました。女性の場合は<隠微>という表現が使われます。それが公にできないような生々しさを伴ってしまうからなのでしょうね。私のように、女性しか愛せない人が多いのは、私自身がいちばん良く知っておりますのに……。
 レズビアンなどという言葉も知らなかった私は、マイノリティーだの、アノルマルなどといった悩みなど一切持たないまま、ごく自然に女性を愛し、そして別れを繰り返しました。
 運命の人ミニョンに愛され、愛し、そして突然に失った絶望。その私の悲しみを癒してくれた可愛い律子を得た幸せ……私にとってみれば、他の人と変わるところなく、心から誠実な愛の営みの日々だったのです。
 おじさまは、私が耐えてきた悲しみが、同性愛の悩みからくるものではなく、最愛の人を失った悲しみだということを理解して下さっていました。
 律子にしたって、ミニョンを失った悲しみを癒してくれた、たった一人の大切な女性です。今も<お姉ちゃん……>と呼ぶ声が聞こえます。律子の愛の深さを想うと涙が溢れてきます。できることなら、私の魂のたとえ半分でもいい、律子の中で生き続けたいとさえ思います。
 お二人には、感謝してもし切れない気持ちが、今、錐となって私の胸を突き刺さして参ります。私のわがままをどうぞ許してくださいね。

 深窓にこもって隣町すら知らなかった私が、いきなり南仏まで来て暮らし始めるなんて、私自身も未だに不思議な気持ちがいたします。でも、私はこの地に来て、自分の精神的未熟さを感じながらも力が漲ってくる心地がしていたのです。
 このエクス・アン・プロヴァンスでの半年余り、来る日も来る日も決まり事のように修道院や教会巡りをし、ミニョンを探す一日を終えるとルパンタンスで手に入れたメゾンに戻り、この私の物語を日記のように綴るのが日課でした。
 この机に向かってタイプしていると、楽しかった日々、苦しかった日々の会話一つ一つまでが、繰り返し観た映画のシーンのように蘇ってきます。
 フランス語の方が、生々しく感じなかった分書きやすかったこともあります。と言うより、フランス語で私の来し方をミニョンに語り聞かせているような気がしていたのですね。ですから、嘘や飾りを取り払って、真正面から私の想い出を掬い取っていると、一歩一歩、着実にミニョンに近付いている喜びがありました。
 そして私は、ついにミニョンと再会できたのです。

 おじさまは仰いました。自ら命を断とうするなら<納得できる答え>が出せるまでの感性が必要なのだと。
 ミニョンは、私の言う事を聞いて睡眠薬でよく眠っています。なんて美しく穏やかな寝顔でしょう。私は今、ミニョンの愛に抱かれて最高に幸せです。この幸せの絶頂で終わること。これこそ私が追い求めてきた<憧れ>だったと納得できたのです。
 この告白がお二人の元に届く頃には、私はその幸せに包まれて眠っていることでしょう。



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