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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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続編/律子その後-7

「ご試着頂けますか?」と言う絵美に対して、
「私が……ですか?」と応えたときは。驚くというより呆れていた。
 <あなたのために、律子が頑張っていたんじゃありませんか>と、律子の努力を弁じてやりたかった、
 律子の選んだ新しいドレスを着た翔子は、美しさにおいてはモデルたちに勝っていた。
 新しい洋服を着たことがないように、すこしはにかみながら、
「リッコってこんなことしていたの? しっくりと馴染んでいるわ。翔子のサイズ、いつ計ったのよ」
「内緒よお姉ちゃん、ふふッ……」
 翔子と律子の会話の雰囲気は、誰も割って入れない睦まじさがあった。絵美は完全に打ちのめされながらも、律子が、自分と同じビアンであることが、逃れようのない網となって絵美を被い、自分と同類の律子が、手を伸ばせば届く距離にいながら掴めない熱い炎そのものだった。

 ファッションショーの翌々日、絵美は律子に頼んで翔子のマンションへ連れて行ってもらった。そのショーに出演していたジネット・ミショーというモデルの依頼を伝えるためであったが、律子の生活の場を無性に見てみたかったからだ。
 翔子と律子の愛の部屋に、胸の塞がる思いで入った。
 高級マンションの、およそ7・80平米はあろうかと思える部屋は、翔子の仕事机らしい上におかれたMacが唯一かけ離れた存在で、高級そうなソファセット、絨毯、壁、カーテンなどは、女性らしいシックな色合いで統一され、そこでみる翔子と律子の掛合いは、絵美が目を離せば、いつでもキスをしていそうなほどの睦まじさだった。

 <ショーに出演されていたジネット・ミショーというモデルさんが、翔子さんのことをどこの誰か調べて欲しいと懇願された>ことを翔子に伝えた。
 ジネット・ミショーが翔子を探している……これは事実だったが、絵美は、このフランス人モデルの翔子に対する要求を見抜いていた。なぜなら、ショーの実務を担当していた絵美にもそれらしい誘いをかけてきたからだった。
 絵美の言葉を聞いて、一瞬暗い目をした律子にすまないと思いながら、
「多分、翔子さんを、今度パリで行われるショーのモデルに推薦したいような口振りでしたけど……」
 律子と翔子の間に亀裂が入って、律子の心が、優しくしてくれる自分に向くのではないかと、意識したわけではない、どこか必死な嘘であった。
 絵美の嘘にホッしたように、律子は純真な笑顔を見せるのだった。それは翔子の愛を微塵も疑っていない純真さだった。絵美はここでも無惨に苦い唾液を飲み込むことになってしまった。
 絵美は、律子を諦めようと思った。しかし、恋情というのは、そう思えば思うほど募るものであった。

 律子がブティックに支払いに来たとき、絵美はわけもなく震えた。
 たった何日かで、律子の身体が妖しいまでの色気を発していたからである。それまでの、まだ女学生のような無垢で明るい律子の笑みが消え、親しい人の葬儀に出席した後のように愁いを含んでいた。
 <律子にいったい何があったの?>
 律子の小さな変化にまで敏感になっている自分が惨めだった。
 律子は絵美の差し出す請求書を見て、
「ありがとう絵美さん。会社の関係でお安くして頂いたみたいね。嬉しいわ。今度絵美さんに私に似合うお洋服をお任せしたいと思うんですけど、作って頂けるかしら。自分のこととなると分からないものね。絵美さんのセンスは信用していますからお任せしたいの。お願いね」
 そう言いながら、プラチナカードを出した。
 いったい、北白川翔子という女性は何者なんだろうと、始めて手にするプラチナカードをしげしげと見つめながら考えていた。
「絵美さん、どうかなさったの?」
「こんなすごいカード見たことがなかったので……驚きました。翔子さんのですか?」
「いいえ、私のカードよ。裏を見て頂戴。私のサインが入っているでしょ」
「……確かに……」
「お姉ちゃんが私にって作ってくれたのよ。でも、使うのはこれが初めてなの。初めて使うのがお姉ちゃんのためになって、とても嬉しいのよ」
 そう言いながら律子は涙ぐんでいた。絵美は、その涙の意味を知るよしもなかったが、どことなく苦しげであった。
 そんな律子を見ると、絵美はたまらなくなって、
「どうなさったの?……律子さん、泣かないで……」
 言いながら律子の首と背中に手を回して抱きしめてしまった。自分でも予期しない行動であったが、律子も一瞬たじろいだ。しかし、絵美の力に身体を預けて、絵美の制服に涙を染みこませていた。
<ああ……律子の胸の膨らみを感じる。鼓動を感じる。なんていい匂いかしら。清潔な匂い……。涙を啜って上げたい……律子が欲しい>
 絵美は、律子の髪の奥にある地肌を思いきり嗅いだ。自分の下半身が気味悪いほど濡れてくるのを意識しながら、いつまでも律子を抱いていたかった。


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