続編／律子その後-13
「今日、鴻作さん出社する日？」と律子が聞いた。
「どうだったかな……あの人、結構いい加減だから」
「ホントね。でも、あのズボラが助かるわね」
「そうそう。その割りには細かく見てる。鴻作さんに何か用なの？」
「ポートフォリオの追加とサロンのパンフレットのディレクションを頼まなくちゃ……それとね」
「うん……」
「私、絵美と結ばれたって言ってやる」
「バカ。そんなことわざわざ言わなくったって……」
「だって、あいつ、絵美を口説いてやるって言ったのよ。飛行機の中では、私がビアンじゃなければ口説いてもいいようなこと言ってたのに」
「だってあの中では、私もビアンだって知ってる感じじゃない」
「そんなこと書いてなかったわよ。二人はいいコンビだとは思っていたでしょうけど」
「そうだっかな……でも、もうちょっと待って」
「なによ。絵美、あいつに口説かれたいの？」
「バカ。そうじゃなくて、律子が以前のように元気な姿を見せるようになったらって思っただけ」
「もう、元気になった。お姉ちゃんもミニョンもここにいる。そして……私に恋してる絵美がいる。私も絵美に夕べ恋をした。それをあいつに知らしめてやる」
「もういい。お好きなように。律子にはサジ投げた」
「車が来ちゃうわね。支度しよ。絵美、そのままでいいの？」
「いいわよこれで。お酒の匂いするかな」
「いやじゃなければ、お姉ちゃんの着てみる？」
「イヤじゃないけど、パンティーだけは代えなくちゃ。もう、大変なんスから」
「お姉ちゃんのでいい？」
「まあ、いいけど……律子のがいい」
「私も代えなくちゃ……律子も……もう大変なんスから」
律子との掛合いは、絵美の心を嬉しさでいっぱいに満たし、悶々とした日々を消し去っていた。
絵美は、朝の光をこれほど爽やかに感じたことはなかった。
律子は社員たちの朝の挨拶に明るく応えていた。
朝いちの会議室には、もう鴻作は椅子に掛けていてタバコを吹かしていた。
「オイ鴻作、ここ禁煙だよ」
「ゲッ」
「ヘヘ……お早うございます、鴻作先生。お早いご出社ですこと」
「脅かすなよ律子は。私のタバコは公認だろ？」
「自分で勝手に私認してるんでしょ？ モデルや私たちのお洋服に匂いが付いちゃ困るんです」
「分かったよ。消すよ。わざわざ重い窓を開けて楽しんでいたのに」
「もうお止めなさいタバコは。長生きしてくれなくちゃ困るのよ」
「ケッ、よく言うよ」
シャッターを自ら開けていく律子の陰で、鴻作はうれしそうに絵美に向かって軽くウインクした。絵美の目が赤くなって軽く頷いた。
やがて10人ばかりの役員が揃い、会議となった。