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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第5章  プロヴァンスへ-9

 ミニョンは、私を昔のように夢中にさせてくれました。私は、溢れるミニョンの蜜にまみれて雲の上を泳ぐ喜びを感じながら、長い苦しみから解放されていったのでした。
 夢のような毎日でした。ミニョンと手をつないでプロヴァンスの美しい風景を堪能しました。ミニョンの手を片時もも離さず、華やかなクリスマスの街のにぎわいにも加わりました。ふと、マルゴに連絡しなくては……と、頭をかすめましたが、もう少し現実に帰ってからにしよう、と思ってしまったのです。

 ある夜、私がいつものようにミニョンの愛で狂い、いつまでも雲に乗っているとき、ミニョンの啜り泣きを聞いて我に返りました。
「どうしたの、ミニョン……?」
「…………」
「なにか言って……どこか痛いの……?」
「そうじゃないの……幸せすぎて怖いの……」

 ミニョンはそう言いましたが、ミニョンの涙の意味が稲妻のように分かってしまいました。律子に対して、初めて感情を剥き出しにしたあの慟哭の奥にあるもどかしさ……。私だけが満足して、ミニョンが官能の喜びを感じたくても得られないなんて……。
 
 神に救いを求めて教会で過ごしてきたミニョンには、長い年月を祈りと自制との葛藤の中で過ごしてきたのでしょう。私の知らないミニョンの日々は、また、ミニョンの知らない私の葛藤の日々でもあったのです。その二人が、こうして巡り会うことができて、他に何を望むものがあるでしょう。セックスなんかしなくても、ただ抱き合って眠り、一緒に食事をし、片時も離れずに生きて行けたらいい……それが私の願いだったのに……でも、ミニョンに触れて平気な顔で済ますことなどできるでしょうか? ミニョンの顔を見るだけで、手に触れるだけで、声を聞いただけで、まして朝の挨拶のキスでさえ、蘇ってしまった官能の疼きは止まるところを知らず、とても平気な顔などしていられないのです。年をとって、お互いが空気のような存在になっているわけではないのです。そして私は聖人ではないのです。ミニョンを求めて、求めて、求めぬいて、そして蘇った私があるのです。
 一方では、一緒に暮らせる幸せで、激しく湧き上がる欲望を凌駕できないものか……、想い出に生きながら二人して生を全うできるかも知れない……、とも考えました。でも、そんな一生なんて意味があるのでしょうか? 愛が深ければ深いほど、お互いの全てを欲しがるのが自然なのではないでしょうか……。
 だけど、この欲望のなんという始末の悪さなのでしょう。
 私の子宮が疼きだしてしまうと、ミニョンの舌が欲しい。私が絶頂を味わっている顔を見つめていて欲しい……と思ってしまうのです。ミニョンにしても、私の身体の全てを吸い尽くすような愛撫をする時は、恍惚とした表情を見せるのです。その後にくる、絶頂を味わえない苦悶に苛まれるのが分かっていながら私の身体を欲しがるのは、もう、人として生まれた<業>としか言いようがありません。
 ミニョンは眠れない夜が続いているようでした。ミニョンをなんとか眠らせなくてはと、私の常備薬を与えて<少し眠ってちょうだい>と懇願しました。
 苦しそうに眠るミニョンを見つめていると、ミニョンを探さない方が良かったのかも知れないと、悲しい後悔が襲ってきたりもしました。
 私の懊悩は、ミニョンに抱かれる度に、ミニョンの苦しみを自分の苦しみとして再び感じるようになっていました。ミニョンも多分、私と同じような迷路に立っているに違いありません。私を救いの天使だと言ってくれたミニョンによって、私だけが救われることはないのです。結局私も罰から解放はされてはいなかったのです。
 官能の先端をへし折られたミニョンに、もう、絶対にあの歓喜は戻らない。一方で大きな歓喜を取り戻した私。でも、私が歓喜すればするほどミニョンの欲望に火をつけてしまう。
 もうこれ以上ミニョンを苦しめたくありません……。

 私は、ラングドッグ・ルシヨンの学生街まで出かけました。化学実験棟から出てきた学生に声をかけ、研究用と言いくるめて劇薬を手に入れました。
 
 私は、まだミニョンの舌の余韻が残る火照る身体でミニョンを眠らせました。二人の衣装も整えました。これから二人の手を布で縛り、私の口からミニョンの口へ甘い毒薬を送ります。
 いっときの苦悩があったって、ミニョンと<完全に>ひとつになれるのは、何ものにも代えがたい私の憧れだったのです。ミニョンと唇を合わせながら二人で天国へ旅立てるなんて……。
どうぞお願いです。ミニョンと私の骨を離さないでください。
                                <完>


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