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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第4章 展開-6

「いい匂いじゃない? サーちゃんだってするめのお菓子食べるでしょ? 翔子はサーちゃんの匂い、平気よ。そのう・・・興奮する匂い」
「ヤダ……ヤダ」
 そんな小夜子とのやりとりは、少女を犯しているような淡い罪悪感があって、私のケガレを少しばかり洗い流してくれるようでした。ミニョンが、私が大人になるまで決して触れようともしなかった彼女なりの<けじめ>を思い出すのです。もっとも性交渉は、お互いの理解の上でこそ喜びがあるものですから、相手を想う気持ちがその内容を変えるのでしょう。ミクに求められるときは、雄犬のように激しく応えていた私が、小夜子に対しては、私も同じウブな少女の感覚になってしまうのです。
 私は小夜子の部屋を引き払わせました。私と生活を共にするようになったのを期に、私の卒業を見越して、学校から少し離れた緑豊かな郊外の新しいマンションに変わりました。サキに知らせただけで、ひっそりとした引っ越しでした。
 私はそこで、小夜子と共に、穏やかで落ち着いた生活を楽しむようになったのです。
 小夜子は北海道の生まれで、そのせいか私に劣らない色の白さを持っていました。手足の指先がほんのりと桜色に染まっていて、それは、小夜子の健康な血の巡りを感じさせました。その色は小夜子の清潔さの証しのようでした。小夜子の普段隠されている部分がたとえ蒸れていても、頭皮からつま先まで、唾液を着けながら吸うのが、私の癖のようになってしまいました。小夜子が、<臭いからヤメテ>と、嫌がれば嫌がるほど、余計にそうしたくなるのは、私の身体の奥深くにある何かが疼いてくるのが分かるからなのです。この感覚は、私が無くした快感を復活させる予兆ではないか、と淡い期待を抱かせるものでした。
 二人で暮らし始めると、小夜子はお料理も上手なことが分かりました。
 私の食生活の内容を素速く見抜いて、郷里から新鮮な食材を送ってもらったりするのもその現れでした。
 朝食にはフワフワのプレーンオムレツと果物を頂くのですが、ある朝小夜子が付け合わせの桃の皮を剥いていて、その桃の皮を鼻先で嗅いでみたり、手の匂いを嗅いだりしながら上を向いて何か考えている仕草をし、首を傾げて手を洗おうとしてまた匂いを嗅いだりしているのです。
 首を振りながら食卓に着いた小夜子に、
「どうかしたの……?」と聞くと、
「ンンン……何でもないの。ちょっと……」
と言って、顔を赤らめました。
「試験、頑張るのよ。翔子のヤマは必ず当たりますからね」

 小夜子は3回生になり私は卒業しました。二人の関係はまだ新婚のように新鮮でした。
 私は卒業しても<就職>などといった観念は頭からありませんでした。級友たちの目の色を変えるような就職活動を見ていると、かなり恵まれた人間だとは思います。でも私は、大勢の社員たちと働く自分の姿がどうしても想像できないのです。夏目漱石の小説にあるような、いわば<高等遊民>を決め込んでいました。一人で買い物に出かけるわけでもなく、<遊び>に類する趣味もなく、ただ一日中好きな本を読んだり、ピアノ曲を聴いたり、サキに会いに行ったり、小夜子のために夕食を作ったりして毎日が過ぎていくだけでしたが、別に退屈を感じたことはありませんでした。
 大学の夏休みが近づいたある日、小夜子が1冊の古びた本を持って帰ってきました。ビオレット・ルダックという作家のレズビアン小説「テレーズ・アンド・イザベル」でした。
「こんな本どうしたの?」
「読んでみたかったから。お姉さまは、これお読みになった?」
「レズビアン小説ねぇ……。翔子、自分がレスビアンなんて思ったことないから……、こんな本知らなかったわ……」
「あたし、お姉さまとこうなってとても幸せなんだけど……、例えば級友たちと喫茶店に集まるとするでしょ? 必ず恋愛談義になるの。まあ、女の子って大抵はそうなんでしょうけど、遙か向こうに座っている男性を指さして、素敵じゃない? とか、道行く恋人同士を見て、あんな子にしてはうまくイケメン捕まえたものね、とか……。恋人のいる子は、彼の話をするときとても嬉しそうなの。小夜子はどうなのよ、って話をふられても、あたし、お姉さまとのこと、友達には何となく話しづらいところがあって……今募集中……」
「うン……なんとなく分かるわ。それで?」
「だから、あたしって特別なのかなあって思っちゃって。お姉さまのことこんなに好きなのに、どうしてお姉さまの綺麗さや、楽しいアノことが素直に自慢できないのか、それが自分でも情けなくて……」
「サーちゃん……そんなこと思ってたんだ」
「だって、あたしにはお姉さましか見えないなのに、みんなの話は大抵男の話なんですもの。やっぱりそんな中で、お姉さまとするアノことは、秘密にしておきたい気持ちの方が強くなるの。お姉さまって、そんなことってありました?」
「ンンン……サーちゃんが言うようなことは思わなかったわ。そりゃあ、どんな本を読んだって、殆どは男と女の関係とか恋愛話がごく当たり前のことととして出てくるわ。それが普通なんだ……とは思ったことはあるわよ。でも、女性が女性を好きになることだって翔子にとってはごく自然のことだし、二人だけの秘密を平気で話すのもちょっとどうか、とも思うわね」
「それはあたしもそうなんだけど……。みんなはね、あの子のは大きいとか、固くて長いとか、突かれて子宮まで届いちゃったなんて言うのよ。どうして女の子同士であんなにあからさまに話せるのかしら。それも笑いながらなの。みんなアッケラカンとしているのよ。あたし、男の子なんて知らないから、しばらくたってから、アア男の子が持っているアレか、なんて気が付いたりして」
「男同士でも、自分の恋人との秘密の話なんかするのかしら。翔子は、女の子同士のそんな話もあまり聞いたことないんだけど……」


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