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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第4章 展開-7

「女の子ばかり集まるとすごいわよ。女同士で分かることは、たとえ身体の秘密でも話す必要はないけど、男の子の身体の秘密が、あたしたちのような隠したい部分の複雑さがないからかしら?」
「翔子にはわからない。考えたこともなかったわ。小学生の頃でも、男の先生が翔子の側に来ただけでも嫌だと思ったわ。中学になった頃は、もうはっきりと嫌悪感が出ていたわ。なんて言えばいいのかしら。あの筋肉ね……のど仏とか……嫌なの。もともと、父も良く覚えていないし、一番親しい男性といえば、あのおじさまくらいで。ずっと女子校だったし、翔子の家も女性ばかりだったせいか、男性とか恋愛の話はしないし、聞かなかったわね」
「子宮まで届いた……なんてことまでどうして言えるのかしら」
「気持ち悪いわ……」
「あたしは、男の子に対してお姉さまほどの嫌悪感って言うか、忌避感は持っていなかったけど、お姉さまにお会いしてからは、ずっと好かれたいって思っていたから、やはりお姉さまと一緒なんだわ」
「ンン……サーちゃんは、女性同士が愛し合うことにちょっとした疑問を持っちゃった、ってこと……?」
「疑問……ではないんだけど、少し理屈っぽく考えちゃったのかしら。それで、この本見つけたから買っちゃったの。でも、ちょっと読んだだけでは良く分かんなくて、お姉さま……お時間のあるとき訳してくださらないかしら……?」
「ああ……そういうこと。翔子もこの本読んだことないから、訳してみましょうか。面白そう……」

 私は小夜子のおかげで、自分から積極的に挑戦したいと思える趣味を知ったのです。フランス文学をいろいろ翻訳してみようと、決心というほどのものではなかったのですが、小夜子のために、先ずこの本を私なりの日本語で翻訳してみようと思ったのです。
 やり出してみると、授業とは違った翻訳する面白さにあらためて気付きました。
 この「テレーズ・アンド・イザベル」は、何十年も前に書かれた小説らしく、<同性愛>に対して何の抵抗感も悩みも待たない私にとっては、その頃の道徳観や宗教観を含めてよく理解できない部分がありました。あれこれ考えながら訳している側から小夜子が読んでいくものですから、待ちぼうけを喰わされる小夜子の<お食事よ>の呼びかけも聞こえないほど夢中になりました。
 夏休みに入ると、小夜子は、一日中パソコンの前を離れない私の側で付き合っているのですが、退屈すると机の下にもぐって、私のパンティーをずらせていたずらをしたり、自分のパンティーをを脱いでヒラヒラさせながら、<あたし、こんなになっちゃったの……ねえ……ねえ……お姉さま、して……>などと邪魔をして面白がっているのでした。

 ある日、里の父から手紙が来たので一度北海道に帰らなければ……と、小夜子がベッドの中で言ったのです。来年はもう小夜子も卒業です。殆どの単位は取れていて、卒論だけだから<お姉さま、お寂しいでしょうけど……>と言うので、<夏の北海道か、翔子も行ってみたいなあ>と言う私に、一緒にいらっしゃる? とは聞きませんでした。その夜の、今までにない小夜子の乱れ方に、何か郷里の事情でも言ってきたのかな、と漠然とした不安を感じました。私の胸の中で、満足し切ったように可愛い寝息を立てている小夜子を見ていると、私の子宮のあたりに締め付けられるような寂しさを感じておりました。

 私の漠然とした予感が現実となってしまいました。
 買い出しから帰って郵便受けを覗いてみると、分厚い封書が入っていました。 
 園田小夜子……その長い小夜子の手書き手紙は、読み進んでいるうちに、寂しさを伴いながらも小夜子の幸せを願う気持ちで一杯になる内容でした。
 小夜子の故郷からの便りは縁談でした。手紙にしたもう一つの大きな原因は、私が小夜子ならそう思うかも知れない、と納得できる小夜子の胸の内でした。
 私に対する切ないまでの愛を告白しながら、いま一つ完璧な満足が欲しいと言うのです。<ああ……やはり、私の無反応がミクのように……>、そう思いながら読み進んでいくと、小夜子のそれは全く違っておりました。アソコを貫かれたい欲望を、小夜子なりの表現で切々と訴えるのでした。
 女性同士のセックスのためにさまざまな道具が開発されていることは、今でこそ私も知っております。でも、そういう類の道具など知るはずもなく、考えもしなかった私は、小夜子がそうした感触を求めているのかと思いましたが、そういうことでもなかったのです。かつて級友たちとのおしゃべりの中で、<子宮を突かれる>という表現が、自分の子宮が疼くように忘れられなくなっていたと言うのです。<男性の逞しさで貫かれてみたい>。そしてその経験は、性的に未熟な(彼女の言葉では生煮えのような)気持ちを拭ってくれるような気がする。結果として自分の分身ができることに繋がるという、全く異質の喜びを伴って。
 <自分の分身……我が子……>
 私は、自分勝手な思いで小夜子との穏やかな生活が続くものと思っておりましたから、考えも及ばないことでした。
 私の、枯れ枝のような身体に比して、小夜子の弾力のあるお尻の大きさは女性らしさの象徴でした。そして、小夜子の可愛さは男性をも夢中にさせる可愛さなのだとあらためて思い知らされたのです。
 彼女のために<良かった>とさえ思いました。そして、幸福な結婚をして、子供をあやしている初々しい小夜子の若妻姿が想像できました。小夜子を失う寂しさとは別に、心から祝福したい気持ちで一杯になったのです。
 小夜子を惑わさないでおこう、と決心して、完成した翻訳もメールも送らず、<さよならサーちゃん、幸せになってね……>と、心の底から祝福しました。


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