愛を知らない役者 (後編)-6
飢えは、治まってはいなかった。
しかし、初めて逢う"同類"への好奇心に勝てるものは無いだろう。
俺は、ガルハーンに連れられて、裏口から館を出た。
向かったのは、海からなだらかな丘になっている、その斜面にある高級住宅街。
なかでもとりわけ大きな屋敷に、彼は平然と入って行った。
広い庭を抜け、どうやら玄関ではなく、唯一明かりのついた右端の窓へ行くらしい。
「まさか、きみのヴァンパイアは、ここの主人?」
「そうだよ。
ダニエルも覚えがあるんじゃない?
その時代で、高い地位を得る方法。
…ちょっと待ってね」
ガルハーンが躊躇無くその明るいフランス窓を叩くと、人影が揺らめいてカーテンが開いた。
現れたのは…
「…ガルハーン」
なんとも甘やかな声で少年を呼ぶ、艶やかな女性だった。
「オリヴィア、ごめんね、夜遅く、突然来たりして」
「ううん、いいのよ、会えて嬉しい…!」
年の頃32、3のその女性は、ガルハーンを抱き寄せて、そのまま熱いキスを始めてしまった。
彼の方も、俺を忘れたかのようにキスに応えている。
しかしこうやって見ると…年の差がありながらも、2人が愛し合っていることが、まったく違和感無いのだった。
「…あ、えーと、オリヴィア、今日は客がいるんだ。
ダニエル、このひとがオレのヴァンパイアのオリヴィア。
ねぇオリヴィア、聞いて!
なんとこの人、ダニエルもヴァンパイアだったんだよ!
オレ、さっき襲われそうになっちゃった」
くすくすと笑うガルハーンを横に、一瞬驚いた顔をしたオリヴィアは、俺の仕業を聞いて軽く睨みつけてきた。
「はじめまして、オリヴィア。
先程は、あなたの"永久の伴侶"に失礼を致しました。
ちょうど飢えがピークだったし…。
それより、俺は他のヴァンパイアに会ったのは初めてなんだ。
色々と、話を聞かせてくれないか」
「はじめまして、ダニエル。
いいわ、お入りなさい。
興味深い話をお聞かせできるでしょう」