愛を知らない役者 (後編)-7
暖かな紅茶をいただき、彼女の書斎で話を聞かせてもらった。
ガルハーンは、といえば、濡らした布をもらって、しきりに首筋をこすっている。
「ダニエル、あなたはまだ、"永久の伴侶"に出会っていないのね。
それなら…どこまで話したら良いものかしら…。
そうね…まずは、わたしとガルハーンの出会いの話をするわね。
ガルハーンは幼い頃に孤児になってすぐ、あの石の館に売られたそうよ。
ただ、わたしと出会ったのは、あの館ではないの。
この子ったら、街の盛り場で、わたしを誘ってきたのよ!
ヴァンパイアの、このわたしを。
その上、本人は男妾なのにね。
でも、今でも覚えてる、声をかけられてすぐ、この子はわたしのエターナル・ラヴァーだ、って分かったの」
「エターナル・ラヴァー?」
耳慣れない単語だ。
「あ、ごめんなさい、北の大陸では、"永久の伴侶"と呼ぶんだったわね。
…わたしは、南の島で生まれたの。
もう一千年も前よ。
確かに親がいて、育てられて、そのうちに島を出たような気がするんだけど。
忘れちゃったわ、あなたもそうじゃない、ダニエル?」
そうなのだ、確かに俺にも親がいて、家を出て旅を始めたはずなのだ、何百年も前に。
しかしもう、それらは忘却の彼方だ。
「寂しいわよね、ヴァンパイアって。
親の顔も忘れ、ものすごい数の人々と関わることになって…。
それでもたった一人を探して、さ迷い続けるの。
でもね、ダニエル、覚えておいて、あなたの"永久の伴侶"もね、辛い想いをしているのよ。
それは、二人が出会ってから身に滲みて分かるの。
今わたしとガルハーンは、お互いの過去を、遡っているのよ」
「互いの、過去…?」
「そうなんだ、ダニエル。
オレ達は今、互いの血を飲んで生きているのだけど…それって、2つの意味があるんだ。
1つは、死ぬため。
もう1つは、今度こそ、幸せになるため。」
「幸せに…?」
「ダニエル、"永久の伴侶"であるこの子の魂が、今までずっと、転生を続けてきたのは知っているわよね?
それと、わたし達ヴァンパイアが不死身なのとは、同じ理由があるのよ。
それは、互いの血を飲んでから知っていくのだけど…。
…言ってしまうわね。
ヴァンパイアと"永久の伴侶"はね、前世で罪を犯し、幸せになれぬまま死んだ恋人同士なの。
片方は不死身、片方は転生を続けることで、前世の罰を受けているんだと思うわ。
そしてまた恋人たちは再会して、今度こそ、幸せになれるのよ」
「ちなみに、オレとオリヴィアは、主従関係だったんだ。
オレが主人で、オリヴィアは奴隷だった。
あ、今と地位が逆だねっ、オリヴィア」